![]() グリッター・ソング [sample] ::Contents:: Hello,hello, 前編/後編 Glitter Song プロローグ #1 Hello,hello.(WEB掲載時から改名) #2 gold turtle #3 幸福の風景 #4 ショック療法 #5 家族ごっこ #6 Arranged Marriage #7 寝室の人魚 #8 最悪の遺伝子 #9(終) ソ、ソ、ソ、ミ エピローグ (Glitter Song #4「ショック療法」より抜粋) エドがこの家へ「家族」としてやってきて、三ヶ月が経とうとしていた。 三ヶ月。一言で表すと短いようだが、そうとも限らない。 たとえば、いかにも夏の盛りらしい青々とした街路樹の葉は、三ヶ月も経てばすっかり落葉するし、それによって、街は原色の無い寒々しい景色に変わる。夏の間は、肉体のほぼ七割を露出させるファッションで闊歩していた女性たちが、まるで雪国帰りのような極太のマフラーを巻き始める。 そう。たったの三ヶ月で、町並みはがらりとその様相を変貌させる。では、人間関係はどうだろう。 私は今、エドの足の間に顔をうずめて、そこにある、彼のささやかな性の象徴を口に含んでいる。 三ヶ月で自然の景観が一転するように、かつての私たちの、清廉潔白な関係が覆った──というわけでは、断じてない。ので、悪しからず。 物語としてはあるまじきこの超展開を、私は一つの言葉でもって説明することができる。 ショック療法、である。 *** ご周知の通り、エドは話し声が出せない。 だが意思疎通については、彼の口の動きや表情、あるいはジェスチャーによって、容易に図ることができるため、日常生活にほとんど支障はない。だからこそこの声の問題について、これまで積極的に打開策や解決策を模索してこなかった。 このまま声が出なくても構わない、と考えていたわけでは断じてない。エドとの生活があまりにも幸福に満ち、平和そのものであったために、複雑な問題に取り掛かるのが遅れただけのことだ。 彼の声を聞いてみたい。その思いは常に、胸の奥底で燻っていた。歌声も素晴らしく魅力的だけれど、彼の話し声、怒号や泣き声、そして何より、笑い声を聞いてみたい。玉をころがすような、とでもいうのか、それはそれは美しい声に違いない。 ただ、彼の咽喉を再生させる、そのための方法がわからなかった。 彼の声を奪った原因と思われる、幼年期の惨憺たる記憶のトラウマ──医学用語では、PTSDというんだったか──を克服させるためには、カウンセリングを受けたり、心療内科にかかったりするべきなのだろうか……と、医学的なアプローチを考えたこともあった。だが、どうにも躊躇った。エドからは、「病」という言葉の持つ雰囲気を感じ取れないからだ。 以前は、私が寝室に入るドアの音に過剰に反応し、瞳に怯えの色を点すことがあったが、最近ではそれもなくなった。この家に再びやってきてからというもの、エドの振舞いは健常者のそれよりも活発で、陽気で、溌剌としている。私たちの生活が無声映画だとすれば、エドの話し声が失われていることなど、視聴者の誰ひとり気がつかないだろう。 そんな彼の屈託のない振舞いを見ているうちに、沈黙を守るあの咽喉は、なにか病的なものというよりは、長年声を出さなかったことによる「癖」や「習慣」に近いもののように感じられてきた。 ──そんな折に、事件は起こった。エドが足の小指を、テーブルの角にしたたかぶつけるという、至極小さな事件だが。 例によって、垂れ流し状態のテレビを見るともなく眺めていた夜のことだ。ガン、という濁った音が右手から鳴り、そちらへ目を向けると、エドがテーブルのそばでうずくまっていた。 「ど、どうした」 慌てて駆け寄ると、エドの小さな呻き声が聞こえた。 「……つ、ぅ……」舌のほうへ否応なく這い上がってくる音を、必死に奥歯で噛み殺している。そんな声だった。 強打した小指の爪は血が滲んでおり、仲良く密着していた肌と爪が離縁しかけていた。男という生き物は得てして、血に弱い。むろん私も例外ではなく、肉から離れかけた血みどろの爪に軽いパニックを起こし、消毒液を探すことに躍起になった。だからその時は、エドの「呻き声」に意識がいかなかった。 消毒をして清潔なガーゼを巻いてやると、エドが『もう大丈夫』とよろよろ立ちあがった。私もほっと胸を撫で下ろし──その時に、はたと煮詰まったのである。 今、声を出さなかったか? 本当に微かな、至近距離でないと聞きとれないものだった。全力で声を噛み殺したものの、強烈な痛みのせいでわずかに漏れてしまった、という程度の声だった。 それでもあれは紛いもなく、歌声以外の、エドの「声」だ。 必死に押し殺し、我慢し、それでも少しだけこぼれてしまった。今のがそういう声であるのなら、もし、<絶対に声を我慢できない状況>に出くわせば──あるいは。そう思った。 エドはソファに腰掛けて、野球中継を食い入るように見つめている。彼の贔屓にしているチームが劣勢のため、その横顔は険しかった。シーズンオフが近いからか、ここ最近のエドの野球応援は白熱さを増している。 そのエドの横顔を、ちらと一瞥した。 端麗な顔立ち。中性的、いや、女性的でさえある美しさ。私の審美眼はかなり厳しいほうだが、身贔屓を抜きにしてもエドは、こちらがはっとするほど整った顔の造形をしている。 まったく問題ないな、と私は一人、頷いた。 絶対に声を我慢できない状況と聞いて、私の頭に真っ先に思い浮かんだのは、言わずもがなピンク色の光景だった。百戦錬磨、愛の伝道師、稀代のプレイボーイと謳われた私としては、自然な思考の展開といえた。ただ、男相手にそういう気が起こるだろうかと一寸悩んだが、エドの整った目鼻立ちを見れば、問題は無さそうだった。その辺の尻の軽い女なんかよりも、よっぽど良い。 前に、「大佐のコレです」と言って小指を立てたハボックを思い出す。当座は鼻であしらったものだったが、今後はあながち否定もできなくなるな、と首の後ろを掻いた。 以上の段取りで、「エドの声再生作戦」を練ったところまでは良かったが、その作戦を遂行するきっかけを見つけるのには苦労した。あくまでエドの声を取り戻すためだけの、一夜限りの<行為>である。その<行為>をエドに持ちかけるきっかけ作りは、難航を極めた。 エドは、イノセントを絵に描いたような少年だ。汚れというものを知らぬ、純真無垢そのもの。そんな新雪のような清廉な少年に、淫猥な足跡をつけるのは、さしもの百戦錬磨の私でも憚られた。それでも、エドの声を取り戻すためなのだ、と言い聞かせ、自らを奮い立たせた。 作戦決行当日──すなわち、今日──夜の帳もすっかり下りきった頃、いつものように二人並んでベッドに横たわった。一週間ほどきっかけ探しに苦戦していた私は、寝つきの良いエドが眠りに落ちてしまう前に、口火を切った。 「エド」と呼びかけると、彼は薄っすらと開いた目をこちらに向けた。『何?』という顔で、きゅっと頭を曲げる。 「君は、一人ですることはあるか?」 今度は反対の方向へ首を折り、『何を?』とエドは眉の位置を高める。 「マスターベーション」 数秒、その場の空間が、一切の動きを停止した。エドに思考する時間を与えるために、時を司る神(たしか、クロノスといったか)が、親切に一時停止ボタンを押してやったようにしか見えなかった。 一時停止から通常再生モードに切り替わるやいなや、エドの表情は一変した。二、三度慌ただしくパチパチと瞬きをしたかと思うと、カチンと硬直する。間接照明のぼんやりとした明かりでも、耳まで真っ赤に染まっていることがわかった。 マスターベーションの意味は知っているようだ、と感心した。十七歳という年齢を考慮すれば当然なのかもしれないが。 「言葉の意味はわかるな」 適切な性教育を施す親よろしく、私は泰然とした口ぶりで話す。 『そ、それは、まあ……』エドはきょろきょろと琥珀の瞳を左右に振る。『孤児院では、同じくらいの年の子がいっぱいいたし……』 なるほど、それなら納得だ。「エドはどうだ、経験はあるのか」 予想だにしなかった質問を食らい、エドは相当困惑しているようだった。マスターベーションという単語だけで、これだけ露骨に赤面しているようでは、彼から色好い返事は聞けそうにもなかった。 『お、オレは……あ、あんまり……』 やはりな、と私は内心で顎を引く。 『よく、わかんないし……』 この手の話になれば、私は水を得た魚だ。愛の伝道師の口説きテクを、とくと見よ。 「恥ずかしがることはない。大切なことだ、エド」 頼りなく揺れるエドの瞳が、こちらを見上げる。『そうなの?』という顔だ。 「確かに、溜まるものを定期的に排出しなくとも、身体に毒ではない。夢精という現象もあるから、自慰は絶対に必要というものでもない」 説き伏せるように滔々と弁舌をふるう。エドはいつになく饒舌な私に、呆気にとられているようだ。 「だがな、自分の身体を知るというのは、とても大切なことだ。いつか君が、愛する人と一緒になる時のために」 私の言葉を聞いて、エドは情報を整理するように一度目を伏せ、それから再び顔を上げて、こちらを上目遣いで見た。 『愛する人、っていうのは……』慎重に言葉を選ぶような、ゆっくりとした言い方だった。『ロイさんとは、違うのかな……?』 「ち、違うぞ」 意表外のエドの発言に驚き、驚いた勢いで即座に否定した。 「君が私を好いてくれていることはわかる。私だって同じだ。しかしそれは、『家族』としての愛情であって──」 『愛情にも、種類があるのかな』 「もちろん、そうだ」 男相手、まして養父の私相手の恋愛など、そんな人道を踏み外したようなことは、エドには決してさせたくない。そんな不毛な恋愛に、明るい未来などあるはずもない。 良妻賢母とでもいうのか、聡明な女性と愛し合い、結婚し、幸福な家庭を築いてほしい。そして必ず、必ず、幸せになってほしい。それが私の、彼に抱く願いだ。ここは、この家は、そのための踏み台でいい。そう思っている。 「とにかく、」 話題が本筋から逸れそうだったので、私は場を仕切りなおした。 「『自分の身体を知る』というのは、男にとってのたしなみのようなものだ」 『う……うん』指導者の言葉に歯向かうことのない、優良な子どもだ。 「やり方がわからないか」 『ま、まあ……』歯向かいこそしないが、早くこの話題が終わらないかな、という雰囲気は醸し出している。 「なら、私が教えてやる」 『え』 有無を言わさぬ私の物言いに、エドの動きが止まる。クロノスが、また一時停止ボタンを押したようだ。 状況の処理に時間がかかっているエドに、肩をすくめて言う。 「これも、親の務めだ」半分は嘘だ。いや、八割か。こちらに都合の良いときだけ、親という肩書きを笠に着てみる。 『そ、そうなの?』 「そうとも」ずるい大人だな、私は。 でも、これは君のためなんだ、エド。ショック療法というやつだ。 折れそうに細いエドの腰を引き寄せ、彼の太腿の間にそっと手を這わせる。性急だが、こういう場面では勢いも大切だ。そこにある小さな隆起に私の掌が当たると、途端にエドが泡を食って慌てだした。 『えっ、えっ、ちょ、ちょっと、まって……!』 「いつでも『タンマ』が通用するほど、世の中は甘くないぞ、エド」 『で、でもっ』混乱のせいか羞恥のせいか、彼の顔は限界まで紅潮している。『さっき、愛する人と、って言ったのはロイさんじゃないか!』 息せき切りながら、私にずいと人差し指を向けてくる。 「何?」私は空とぼけた。「なんと言っているのか、よくわからない」 『バカ!』エドが潤んだ両目でこちらを睨んだ。 (Glitter Song #5「家族ごっこ」より抜粋) 今の時期は、チアユという魚が釣れるらしい。 「稚鮎」と書いて、チアユ。読んで字の通り、鮎の子どもである。 釣りに行きましょうよ、と誘ってきたのはハボックだった。軍に一度エドを連れて行ってからというもの、調子はどうだ、休日は何をしているのか、などとハボックはしきりにエドの様子について尋ねてきた。単純にエドを気に入ったという理由もあるにはあるだろうが、私の新たな「愛人」として、げすな興味を持っているようにも見えた。出歯亀根性旺盛な男なのだ、奴は。 そして実際、エドの咽喉のためとはいえ、彼と不健全な行為に及んでしまった手前、エドとハボックを引き合わせるのには抵抗があった。スキャンダラスなネタにおいては、ハボックはへんに鼻が利くのだ。 それでも、せっかくの休日だ。ハボックに対する気後れよりも、水温む春の陽光の下へ、エドを連れ出してやりたいという思いが勝った。生憎、今日は曇り空だったが。 「めちゃめちゃ簡単っすよ、バンバン釣れますよ」 私の家まで車を回してくれたハボックは、ジープのハンドルを豪快に切った。 「チアユ、か?」その荒々しい運転に、助手席の私は思わずシートベルトを差し直した。 はい、とハボックが頷くと、唇に挟まれた煙草も一緒に揺れた。 「釣り方は簡単、食っても美味い。ファミリーフィッシングにお誂え向けのターゲットっす。今日は天気もいいし、きっと大漁ですよ」 「天気がいい? 曇天だぞ」 「ズブの素人すね、大佐」とニコチン野郎は一笑に付す。「曇りのほうが、魚にとって釣り針が見えづらいから、よく釣れるんですよ。常識っすよ、常識」 「やかましい」むす、と私は煙草臭いシートに背を預けた。「お前のような暇人と一緒にするな」 広いトランクに、ハボックご愛用の釣り用具一式が載せられている。無駄に図体のデカいジャン・ハボックのような男のために作られた、無駄に図体のデカい車だ。リッター四キロという恐るべき燃費の悪さを考えれば、この環境社会において、クズ同然、A級戦犯扱いの車といえた。 後部座席にいるエドは、トランクのほうへ身を乗り出し、釣り用具を一心不乱に眺めている。 「ハボック少尉、これは何?」 エドの手には、『ウルトラパニック』と書かれた小袋がある。 「ああ、それは──って、え?」ハボックがエドのほうを振り返り、きょとんと目を丸くした。 「おいハボック、赤っ!」 私が眼前に迫った信号機の色を叫ぶと、慌ててブレーキが踏まれる。キィッとタイヤのゴムが擦れるような、甲高い音が鳴った。 急ブレーキを詫びることもせず、ハボックは二、三度瞬きした後、 「え、エド、声が……」と唖然とする。 「うんっ」 エドが快活に頷いてみせる。余計なことは言うなよ──と私は祈るような気持ちになる。 「ロイさんが、治してくれたんだ」 思い切りグレーゾーンのエドの発言に、私を見るハボックの目が、途端に険しくなった。 「大佐が……? へえ……」腹に一物あるといった態度だ。 「で、これは何?」エドは『ウルトラパニック』をぐいと突き出す。 「釣り針。これで魚を釣るんだ。頑張れよ、エド」 ハボックはエドの問いに簡潔に答えると、急激に声を潜め、助手席の私にだけ届くようなトーンで、 「……万能っすね、国軍大佐っつーもんは」あとで詳しく聞きますよ、という目だ。 「いやあ、それにしてもいい天気だな、ハボック」 「いい天気? 曇天すよ」 *** 淡水魚のイメージの強い「鮎」というくらいだから、川へ行くのだろうと漠然と思っていたのだが、連れてこられたのは海だった。 ハボックは漁港の近くにある駐車場に車を停め、手際良く釣りの準備を始めた。波止場に折りたたみ式の椅子を三つ並べて、釣り糸の先に、先ほどの『ウルトラパニック』をくくりつける。『ウルトラパニック』は、私のような素人の想像する釣り針とは違い、一本の糸に対して枝状にたくさんの針が付いた、特殊な仕掛けだった。ハボック曰く、けっこうなお値段のするものらしい。 糸にぶら下がる無数の針を見て、私は思わずハボックに聞いた。 「その針ひとつひとつに、エサをつけるのか?」針の数を考えると、それは途方もない作業のように思えた。 「稚鮎は、エサもコマセもいらないんです」 「コマセ?」と、エド。彼が聞かなければ、私が聞いていたところだった。 「撒き餌のことだ。魚を呼びよせるために餌を撒くこと」 答えながら、ハボックは釣り糸を海面に沈めた。だったら初めから撒き餌と言えばいいじゃないか、玄人ぶりおって、と腑に落ちない私はぶつくさ考える。 「ほんとに釣れるのか、そんなもので」 私は疑心暗鬼である。こんなところまで遠出して、収穫の一つもなかったら骨折り損だ。しかも、海風のせいでかなり肌寒い。大体、エサはいらないなどと言うが、ただケチっているだけなんじゃないのか。 「まあ見ててくださいよ」 ハボックが不敵に笑む。アテにならない笑顔だと感じたが、釣り師が煙草を銜えるのは、なんだか様になるな、とは思った。 堤防には、他にも三十名ほどの釣り人がいた。こんな田舎の街に? と私は予想外の釣り人口に驚いた。「でも、今日はまだ少ないほうですよ」とは、ハボックの談である。 他の釣り人のほとんどは、「人生」というよりは「余生」を生きているというかんじの、定年過ぎと思しき男性だった。皆、個人プレーで黙然と海に向かっている。そんな中、若輩グループの私たちはやや浮いた存在だった。 エドが波止場から頭を突き出して、繁々と海面を覗いている。海に落ちやしないかと私は気が気でない。 海面に向かって、エドは感動の呟きを漏らす。 「これが、『海』かあ」 「そうか、海は初めてか」かく言う私も、海など数年ぶりだった。 テレビで何度か見たけど、と言い、「ロイさん、なんで海は波が立つの? 船が出入りするからかな」 「諸説ある」そうとしか、返しようがなかった。「ただ、船のせいではないことは確かだ。船の動かない夜の間も、波はあるからな。実際は月の引力のせいだとか、風のせいだとか、色々だ」 「そうなんだ」 「へえ」と、今度感嘆の声を出したのは、ハボックだった。「まじで、本当の親子みたいっすね」 それはそうだろう、と私は言いたかった。血の繋がりはなくとも、私たちは本当の家族なんだ、と。 ハボックの言葉に、エドが照れる。「あ、ありがとう」 「だから、礼は禁止だと言っただろう、エド」私は軽口めいた口調で咎めた。「当然の事実に、礼は無用なんだ」 「社交辞令っていう言葉もありますよ、大佐」ハボックは肩をすくめる。「それも一種の処世術っす」 うるさい、とハボックを睨みつけた。 「家庭の問題に、部外者の貴様が口を出すな」 「うわ、ひでえ親」 声をあげて笑ったハボックが、「それより、ほら」と竿を海面から上げる。そこには、満願飾というのか、全ての釣り針にチアユが食らいついていた。 うわっ、と私とエドが、同時に仰け反った。 「本当に釣れるんだな」と私はうねうねと動くチアユを眺め、 「す、すごい!」とエドが、それこそチアユのように飛び跳ね、 「楽勝っすよ」とハボックは鼻を高くした。 「私にも竿を貸せ」 「オレにも、オレにも、少尉!」 「師匠と呼んでもらっても構いませんよ」 胸を張るハボックに、「調子に乗るな」と肘鉄を食らわせた。 |