(最後の、一日) (さいごのひ) (さよなら) (わすれようか) (おぼえていようか) (選択肢はふたつあるようにみえてじつはひとつだった) (そう、ひとつ、ひとつ、それだけ) (おれにはわかっていたそれがひとつであることもわかっていた) (わかっていたから、) (ないたんだ)(くるしかったんだ)(いきができなかった) (さよなら) (おれにはわからないよ) (おれは、) (ねえ、) ねえ。 (さいしょでさいごのおれのあいぼう) --第十一便--(上) (第一部最終便) *下へ飛ぶ* 夏休みが終わる。否、終わった、というべきか。宿題のテキストはむろん、全部白紙だ。トーゼン。 瞼を開けようとする。でも開ける前に、少し迷って、暫しの逡巡があった。 (ああ、瞼を開けたら──) 夏休みが・・・!終わって、しま、う。泣きそうだ。わーん。 確かに、夏休みの後半はぎっちり講習が入っていた。そして講習後の、申し訳程度の残り3日の夏休みは、これ以上無理!ってぐらいぐーたら過ごした。ぐうたらって素晴らしい。だって“ぐうたら”ってその言葉の響きさえ甘美ですもの。ぐうたらぐうたら!今欲しいものは?って神様に聞かれたら、オレは即答でそして誇らしげに“ぐうたらです。”と言うだろう。 はぁ・・・。さよなら、夏休み・・・。 観念して、開いたら既に夏休みではない空間を映し出すだろう眼球を覆う瞼を、よっこらせ、と持ち上げた。この開閉する薄い皮膚が、ダンベル10個分より重いと感じる一瞬だ。 網膜が案の定、もう夏休みでない空間を、世界を、映し出した。とりあえずロイの家の、シアンのベッドシーツが目に飛び込んできたが、いつもとなりに寝ているはずの(今日は開会式ということで、昨日ばかりは“ロ椅子”状態での就寝を回避した。オレが決死の努力でロイを起こしたのだ)当の本人ロイ氏が居ない。 やや、どちらへ行かれた? 只今6時半。オウ、随分と早く目覚めてしまったらしい。夏休み終了の途端にこれか、と自分の現金な身体にがっくりする。開会式に大寝坊するぐらいの根性見せやがれ、くそう! 6時半という早朝にも拘らず、ロイはもう起き出しているみたいだ。その異様な雰囲気さえする早起きロイを、目玉を部屋中に泳がせて探す。どこだ、ドコダ?(気分はターミネーターだ。あのターミネーターの視界にうつる、緑のデータ解析みたいな画面が超シビれるのですよ!) そのオレの拙陋なデータ解析画面の隅っこに、ロイの背中が捕らえられた。発見、ハッケン、タダチニ、ホカク、セヨ。なんちって。 直ちに捕獲いたします!と張り切って、ハツラツに起き出した。上半身を起こす際にも、ウィーン、とかいったような効果音が脳内で流される(勉強はできるけどエドは馬鹿だ、っていうのはロイに百回は言われたので、たとえアナタがそう思っても心の中に秘めておいてください)。 「ロイー、何やってんの?こんな朝っぱらから」 部屋の隅にある勉強用のテーブル(であるらしいが、実際そこでロイが勉強しているのを見たのは今日が初めてだった)に背を向けて座っているロイの、後方1メートルあたりでその前かがみ気味になっている背中に、のそのそと近づきながら声をたたきつけた。 そのオレの臆面もない声を聞いて、肩を少し聳やかしたロイは、後ろから見てもあからさまなほどに慌てて、机の上のものをバサバサと隠そうとした。その様子を受けて一瞬オレは眉間に皺を寄せたが、直後、それに代わって口端を吊り上げるような悪質な笑みをたたえた。 「なーにーちょっとちょっと!あわてて隠したりして!やらしー本でも見てたのかしら!朝からお盛んですな!どれどれ」 オレが1オクターブほど高い高揚した声でからかいの言葉を言っている間に、ロイは最終手段とでも言うべき、机の上に突っ伏して身体で机の上に広がっているだろうと思われるあのテの本を隠そうとした。 別に隠さなくてもいいのにぃー、とにやついた声音を発するオレの目が、ロイの突っ伏した身体の脇から覗いていた本の表紙に記されている漢字を捕らえた──そう、漢字だ。 『六法』、 「・・・全書?」オレがロイに隠れて見えない部分の文字を補足した。たぶん、大当たり。 ロイの肩が、大きく溜息をついたのが見て取れた。「最悪・・・」 諦念に駆られたのだろう、ロイは大儀そうに身体を起こす。そこにはやはり、『六法全書』と表紙に大書された、まな板にでもできそうなほど分厚い本と、“法律“や“勉強”、“司法試験”などの文字が踊る参考書が他に数冊あった。ロイはといえば、きっと猥本を発見されるよりも、あるいは法律に即して例えをあげるなら猥褻物陳列罪で裁かれる被害者よりも、バツの悪そうな顔を呈して、呟くように言った。 「・・・弁護士に、なりたいんだよ」 オレを目を合わせようとせずにぼそっとそう吐き出して、少しの間の後、付け足した。「わりぃか」 「だ、誰も悪いなんて言ってねえだろ!」なんだかその殊勝で神妙で、且つ笑いも誘う様相を驚きに満てるまなこで見つめながら、これまたオレも慌てて否定した。「被害モーソーっつーんだぞ、そういうの」 「やかましい」 「・・・もしかしてさ、夏休みに、いつも映画見終わんないうちに寝てたのって」 「そうだよ、そうですよ」 「早起きして勉強してたからなの!」 「だからそうだって言ってんだろ!」なんで今日に限ってお前は早く起きるんだ、いつも俺が起こすまで爆睡してるくせに、とかぶつぶつ悪態をつきながら、机に広げられた六法全書と法律を勉強するためのテキストのようなものを黙々と閉じてしまいはじめた。 「・・・おまえ、ちょっと、すごいな」 オレがなんとはなしに賞賛した。その、我知らず漏洩した、というふうなオレの言葉を聞いて、ロイは「・・・何が?」と不思議そうな顔を包み隠さず露呈する。 「しょうらい、とか、ちゃんと、考えてんだな、ロイのくせに」 「くせにとはなんだくせにとは」とりあえずそこへ突っ込んでおいてから、「別に考えてるとか大仰なもんじゃない。ただ、小さい頃からだな、なりたいと、って何言わすんだ貴様は」 その言葉に、オレは笑う気になれなかった。「オレは、どうすればいいかな」 胸に巣食う少しの、焦りのような、焦燥。 「エドはなんにでもなれるだろうから心配要らねーよ」 「そんなの買い被りだ」 「大丈夫だって、なんならお前も弁護士になるか?」 「そうしようかな」 「まじかよ、いいけどさ」 と、ロイは次に困ったような、苦笑のような表情を見せて、「・・・そんな泣きそうな顔すんなよ」と、オレの頬をさわった。 え、オレ今泣きそうな顔してんの? 「だ、」 いやいや、そんなはずは。 「だ、誰がだ!エドワード・エルリック様は選択肢と可能性が多すぎて困窮してるんだよ!オレってば天才だからね!キミタチ凡人が抱える悩みとは格が違うのだよ!はっは!」 ロイの手から逃れるように、後ろを向いて学校の支度を始めようとする。 「あ、そ」ロイも殊更深追いせずに、あくびをひとつし、凝った意匠のパイプ椅子から立ちあがった。「俺は凡人でいいです」 「髪を結んでくれろ!あとネクタイも!」 「その“ろ”口調久方だな」 ワイシャツと制服のズボンを着込みベルトを巻いた時点で、朝の支度の中でもうオレにできることはない。できること、というよりも、することがない(というのは、ネクタイはともかく髪は結えるのに、自分で結おうとしないからだ)。 お前ボタン掛け違えてんだけど、とロイが目敏くオレのワイシャツの異常に気がついた。「え、嘘?」と疑義をただすように自分の胸部から腹部にかけて視線を流してみると、なるほど、一番下にボタンホールがひとつ余っている。 「エドは日毎に自分でできることが少なくなってやしないか」 「そ、そんなはずは」 ロイは軽く呆れの味がついた溜息を吐き出して、そのオレによって掛け違えられた酔狂にも見えるボタンたちを外していき、上から二つは外したままで(これ本当は怒られるんだけど)、また順番にしめていった。 「はい次ネクタイ!」 オペ中の医者が看護婦に、「メス!」と言って手を差し出すようなかんじで、オレにネクタイを要求した。オレもまたその「メス!」を予見していたかのように、ちゃっ、と敏速に渡す。「はい先生!」 そして手馴れたふうに瞬く間にネクタイを結び終え(ものすごく目にも留まらぬ速さで結んで見せるということは、もうオレに覚えさせる気がないらしい)、テーブルの上に乗っていたいくつかのゴムの中から、ピンクのハート付きのゴム(エド様党かどっかからの、下駄箱への差し入れ)を選別してロイが手に取る。 「なんでハートのやつなんだよ!」オレが嘆かわしい!と唇をひるがえすと、 「せっかくいただいたんだから一回ぐらいは使ってやれ」と有無を言わせずオレの髪をその煌びやかなゴムで束ねてしまった。 「似合うから大丈夫」そう言う声には含み笑いが乗っていて、非常に腹立たしい。「そういう問題じゃねえんだー!ばかー!」 「そうやって女性からの好意を無下にするからお前はモテないんだよ」 フフン、と憎たらしく鼻を鳴らすロイに言い返す言葉は見当たらず、 「・・・・・このタラシ!しんでしまえ!」 と筋の通っていないことを喚き散らすと、やっぱりロイが笑った。 お前のような“オトコマエ”に属する奴らには、オレの苦悩など到底わかるまい・・・!ハート型の飾りが付いたピンクのゴムなんて、屈辱以外の何物でもないんだよ! 「ママン助けて!女タラシがオレをいじめるよ!」 迫真的に泣きまねをして手で顔を覆うと、ロイの哄笑に拍車がかかる。 ハートのゴムなんてさぁ・・・。 悲嘆。 *** 宿題は全てロイの家に置いてきた。だって持っていったって提出できませんからネ!かさばるだ、け、よ! 「ひー九月だってのにあちィなちくしょー!」 太陽に指をさして喧嘩腰で訴える。「おまえ!有給取れ有給をー!」 疾走する自転車の上で顔に感じる風も、どこかじめっとしていて、“涼”とか“爽”という漢字がイマイチ似合わない。夏には死ぬほど恋しくなる、幻惑とも言えるような漢字たちだ。 「漕いでる俺はもっとあちーんだ!たまにはエドも漕ぎやがれ・・・!」 「やだわ奥さんご冗談を」 こんなピンクのゴムを付けているような非力なオレ様に肉体労働など!オレは知性派なんですよ。「ピンクのゴムじゃなかったら、考えてやっていたかもしらんがね」ははは、とオレがまるで大手会社の、富裕層ではあるが頭はチープな社長然の声で笑った。 「ほざけ」もしもピンクのゴムじゃなかったとしても、そんな気微塵もないくせに、という言葉を“ほざけ”の一言に凝縮した。 もちろん、その通り! 雀がチュンチュン、と澄み渡った空へと、今日という日が来たことが心底嬉しいといったふうに、優雅に歌っていた。 早起きは三文の得、とまではいかないがとりあえず遅刻を免れることは綽綽余裕だったので、ゆったりと電車に乗ってゆったりと登校した。 正門から二人並んで校内へ入っていくと、周りを歩く生徒たちの目が一身ならぬ二身に注がれる。男女問わず東西南北からの、好奇が横溢した夥しい数の注視だ。 まぁそんな視線にもすっかり慣れ──というよりも、気にしていたら生活できない──特に喜びも浮かれも恥じらいもせずに(それでも、ハートのゴムはちょっと恥ずかしかった)、暑い暑いと文句ばかり校庭へ垂らしていきながら淡々と校舎へ向かって歩を進める。 と、唐突に右手から一人の女子が疾駆してきて、オレの身体にがばりと勢いをつけて抱きついてきた。 「どわっ!」おそらくエド様党であろうその女子の、ヤバ度MAXの行動にオレが驚いてよろめくと、別の女子が二人ほど血眼で走ってきてオレの身体に執拗にしがみつく女子を二人がかりでひっぺはがし、こんな事を朗々と言い放った。 「エド様に触れていいのは!」 「ロイ様だけなのよ!」 どうやら気の合うコンビらしい。そのコンビの胸には、“ロイ様エド様親衛隊”なる札がついていた。し、しんえいたい? そんな集団は初耳だな──って! 「な、なんじゃそりゃあ!」思わずオレが、そのコンビがふたつに分けて言った、どうやら言いなれているところを見るとかなりの常套句らしい台詞に対して、素っ頓狂な声をあげてしまった。 「いつからそんな事に・・・」となりに立つロイも、腑に落ちないかんじでオレの突っ込みに同調した。 ずるずると“ロイ様エド様親衛隊”に引き摺られていく女子を、呆然と見つめてしまう。その連行されていく女子は、今後どのような冷遇を親衛隊に受けるのかさっぱり見当がつかなかったけれど、恍惚とした夢のなかにいるような瞳を爛々とさせ、「マジヤバーイ、エド様ちょういいニオーイ・・・」とかうわごとのように呟いていた。 「いやいや、」オレが言った。 「ヤバいのはお前だから」と、言い詰めたのはロイ。 校舎までの残りの距離を歩きながら、「お、おれ、オレ、女の子に抱きつかれたの初めてだったのに・・・」と、こんな悲境の中での初体験にめそめそするオレを横目で見て、ロイがへらへら笑った。 「よーエドちゃん!見たぜ朝のー!朝から爆笑をありがとう!」 エドちゃん、という呼称からして、大体の人物特定はできた。オレはまだめそめそと机に伏していたので、顔こそ見えなかったけれど。 潤んだ瞳で顔をゆっくりあげると、やっぱりブロッシュだった。 「ブロッシュうぅぅ・・・たすけて・・・オレもう立ち直れない・・・」 オレのその言葉を聞いて、ブロッシュが狼狽したように、「ね、ねえ、どうしようロイ、エドちゃんがオレを誘ってくるよ」ロイに助けを請うと、ロイは笑い声をあげてみせただけだった(その笑いはどこまでも余裕ありげというか、オレにとってはきわめて悔しいものだ)。 解釈の方法が180度ちげえ!と、怒鳴り散らしたい気持ちもあったけれど、オレは今朝の一件でハートに大きな風穴があいていたので、その風穴から怒気がするする逃げていってしまった。 オレの人生最初の、そしてもしかしたら最後の──そんなのは断じて芳しくないが──オンナノコというひどくオレから遠い位置に居た生き物との甘酸っぱい耽美であるはずの記憶を、あのヤバ度MAXの女子と“ロイ様エド様親衛隊”なる不可解な集団によって、打ち崩され蹂躙されてしまった。その事実を見据えるたび、風穴がどんどん大きくなっていく。 「あ、そういや、講習中に受けたテストの順位が出てましたヨ」 オレに元気が戻ってきた。 テスト。結果発表。それこそ、今こそ、涼しげな顔をしたタラシロイを打ち負かすチャンスだ。 「結果見に行くぞよっしゃー!」席から元気有り余る風情で立ち上がって、気乗りしなさそうなロイを引き摺っていく。 結果は、言わずもがなである。 オレの名前の上には、『順位発表』の文字。つまり、誰もいない。 ピノキオが二千回ほど嘘をつくとこうなるのではないか、というぐらい鼻を高くして、高らかに笑った。はっはっは。その声の九割九分は、ロイへのあてつけだ。 「いや、本当、オレってば天才でごめんなさいね!もー、困っちゃうなホント、なんでこんなに天才なんだろ!」 傍らで成績表を見上げていた(成績表を見る、ではなく、自分の名前がいつも上の方にあるので“見上げる”になってしまうのだ)ロイが、じとりとこちらに視線を向けた。「ほんとに納得いかん」 フッ、とオレが、ダイヤのマークを顔の周りに散らせながら、 「色恋沙汰なんかに惚けているからですよ、君」 と、以前にも一度言ってやった台詞を、再度はき捨てた。 その心外だったらしいオレの言葉に、ロイは少々不機嫌そうな顔をして、「別に惚けてねえよ、高校入ってから彼女いねーし」 とボヤき、その言葉にオレは目を見張った。「そういや、そうだっけ・・・」 (それって、もしかして・・・) 誰も言い寄ってこないということは、つまり、オレ達の間柄が激しく周りに勘違いされているからなんだろうか? 心、外、だ。きわめて。 オレの下駄箱にもロイの下駄箱にも、ファンコールを叫ぶ手紙はいくらでも収まっているが、俗にラブレターと称されるものは全くと言っていいほど送られてこない。ただしオレの場合、稀に男からはあるが、あれらは塵芥の如くアウトオブ眼中なのでここの算段に入れないこととする。 (これはやばいぞ) オレは本気で焦った。 (やばい、非常にやばい) どうにかしなくては。オレの人生お先真っ暗だ。 『タダチニ、ジタイヲ、シュウシュウセヨ。』蛍光緑の画面で、データ解析がぶっ壊れそうなほど懸命に回り始める。『キケン、キケン、キケン。』 『デンジャラス!』 『タダチニ、ジタイヲ、シュウシュウセヨ!』 アイアイサー! 「オレは彼女を作るぜ、ベイベ」 教室に戻り、隣の席に座りながらオレを眩しそうに仰ぐロイを見下ろしながら(オレは立っている、二人とも座った状態でロイを見下ろすことは不可能だ、腹立たしいが)、オレは凛然と宣言した。 「マイハニーがオレを待っている!待っててマイハニー!」これでも全校一位の秀才君です。 「は、むりむり」とロイがせせら笑いながら、オレの断固たる宣誓をいなした。「ネクタイひとつも結べないのに」ここで一つあくびをして、「あと、牛乳も飲めな」「だああぁぁあ!皆まで言ったらころす!」 こいつに言われると十倍は腹が立つんだ!それは、否が応でも自覚してしまうぐらい明瞭な負け惜しみだからである。 「大体ロイ!お前は悔しくねえのか!こんな誤解さえなければ認めたくないがお前は両手に花のハーレム状態なんだぞ!オレの次くらいに!」 「べつに・・・言わしときゃいいんじゃねえの・・・俺なんかいっそめんどい、そういうの。飽きちゃったの、ゴメンネモテて。モテるのに飽きたっていいますかー」 くそう・・・! 「お前なんかしんでしまえ!」つん、とオレは顔の向きをロイから逸らした。 「とにかく!オレは彼女を作る!ここに宣言します!ブロッシュ、他のクラスのやつら、主に女子、そして更に可愛い女子、に伝えとけ!お前顔広いだろ」 よし、と、とりあえず一旦安堵して、誓いを胸中で新たにした。 「ったく、意味わからん誤解があったりするから・・・!嘆かわしい」 そう嘆いたオレを、ロイが机に伏しながら顔だけこちらへ向けて、ちょいちょい、と指で呼んだ。「エド、ちょっと」 「ん?何なに?」 その指の動きに従って、女子にモテる秘儀か何かを耳打ちしてくれるのだろうと、耳をロイの方へ近づけた。途端、ロイがオレの腕を鷲掴んで引っ張り、オレのほっぺにキスをした。 一瞬オレが硬直すると、ロイは性懲りもなくへらへら笑う。どうやらとことんオレのモテ具合をからかおうとするらしい。 オレが大声を張り上げて宣誓などしていたものだから、クラス全員分の視線と、10組の教室のドア付近に常時群がっているロイ党やらオレ党やらロイエド党やらの大勢の女子の視線をちょうど今浴びまくっていてそんな折、だったのに。 キャアー!とドア付近の女子ほぼ全員が色めきだった。オレは焦る。 「い、い、い、いま、今のは断じてちげえからなぁあぁー!!」被害を被った左頬をおさえながら、赤面している奴らと沸いている奴ら全員に向かって、そう告げた。 ロイはといえば、そんな周りの喧騒も露知らず、いつの間にやら机に伏して眠っている。 あのー、こいつ、まじで殴ってもいいですか。 *下へ飛ぶ* |