人が死ぬとき、生前の記憶が走馬灯みたいに蘇るっていうけど、オレがロイの名前を呼んだときも、そんなふうにして、色んな思い出がぐるぐる頭の中で渦のような竜巻を起こした。 走馬灯──つまり、回り灯籠、と最初に表現したのは誰だろう、実に、言いえて妙だ。 淡いやわらかな光に内側から照らされたような、燦然と光を放つ莫大な思い出が、眼球の奥に駆け巡る。脳が灯る光で頭蓋骨が周りを覆う紙、そんな質朴な回り灯籠が、頭にどん、と乗っかった感じ。 全ての思い出が、すごく優しい光に照らされる。 (走馬灯だ) オレ、しぬのかしら、と、柔和な光に変幻した脳でぼうっと考えた。 涙がぽろりと落ちた。 こういう、やわらかくてやさしい光に照らされ見送られながら、人はしんでいくのかな。 --第三便-- 『過去なんて観賞用だ。くだらないセンチメンタルに囚われんな』 そう。 そういう言葉をオレに掛けて、微笑んだのはロイだ。 確かにまだ、あれを、あの一件を、“過去”として見るには時間が足りない、全然足りない。オレは馬鹿だし、鈍いし、そういった順応もきっと遅いやつだから、まだまだ時間は不足している。 だけど、あれがもし、 “過去”になりきれなくて未だに“今”の範疇であったとしても、それでも、いい。 それでもいいよ。 また、ひゅう、と一匹のトンボが、オレの視界の右から入って左へ抜けた。 秋は迫る。秋が迫る。 そうして、夏にさよならをする。 さよなら。 オレのさよならを背中に乗せて、トンボが初秋へと飛んでいく。そのさよならが秋に届いたら、きっと紅葉が始まって、落葉がそのさよならを締めくくるのだろう。さよならを届けに来たトンボの赤色が葉に乗り移って、それらは恥らうように紅くなるのだ。 黄色い葉っぱが落ちる。恥じらう赤い葉っぱも落ちる。その下を歩く人々に、秋を知らせるように。 秋は頭上から降ってくるもの。 けれども、その赤らんだ綺麗なトンボは、滲んで、よく見えなかった。 そのトンボのずっと向こうに見える背中も、輪郭がぼやけて、それが悲しくて、涙を恨めしげに拭った。 「ロイ・・・・ッ!」 お腹をぎゅうっと絞ったようにして、例えば水気を切ったタオルからたった一滴残っていた雫が垂れるような、そんなふうに苦しくて、でも出してみたらすっきりとする声をあげた。 バケツに落ちたその一滴の雫が波紋を広がらせて、その波紋が、ロイの耳に届くだろうか。 喉に詰まっていたわだかまりがすんなり通って、やっと息ができた。はあっ、と急ぐように息を吐き出す。 ここで走馬灯が、色んな思い出と共に渦を巻いて、一瞬、未来のことなんてどうでもよくなってしまった。観賞用の過去に、心酔していては意味がない。 過去は、大事な大事な記憶だ。大切にする、絶対、なくさない。 けど、今は、未来の方がずっと大事だ。 今、オレの前方に──過去が後ろだとするならば、それは未来側に──ある、あの背中を振り向かせる方が、ずっと、大事だ。 単調に、そして冷然と歩を進めていたロイの足がほんの少し、動きを止めた。 そして躊躇うように、また、歩き出そうとする。オレとの間に下ろされたシャッターは、まだ、上がらない。 上げなくちゃ。上げるには、声を出さなくちゃ。オレが、動かないといけない。 オレが、オレが頑張らないと、厳然とした面持ちのシャッターは、頑迷固陋に閉じたままだ。 「ロイッ・・・!無視すんなっ、ばかぁ・・・・!」 語尾が間延びして、オレは顔を覆ってしゃがみ込んだ。声を産出しようとお腹を絞り上げすぎてそのあたりが痛くて、立っていられない。でも痛むのは、お腹ではなくて、そこよりもう少し上にある身体の核を司る臓器だ。どくりとして、痛くて、握られたみたいに息苦しい。その戦慄が足にまで伝わって怯懦に竦んで、しゃがまずにはいられない。 ロイの動きがまた止まった。それでも、止まったきりで、まだ身体は向こうを向いたままだ。 屈んで顔を覆って、そのせいで、こんなにもくぐもってしまった声だとしても、かならず届く。 少しだけ上がり始めたシャッターの隙間から、きっと、きっと届く。 「ロイ、」 他の言葉が、なんにも、浮かんでこなかった。頭がそれだけに染まる。その二文字に支配される。溢れる涙が鬱陶しいけれど、止まってくれそうにない。 気の利いた台詞?粋な計らい?そんな難解な問題、痴鈍なオレなんかに解けるはずがなかった。 「ロイ、ロイ、ロイ、ロイ・・・・っ!」名前を一回呼ぶたびに、涙が堰を切ったように零れる。 トンボがオレの背中に止まった。 昨日からどうやら、オレはトンボに好かれているみたいだ。こんな惨めなオレを、慰めてくれているのかもしれない。『もう少し、あと少し』 あと少し、その名前を、 「ばかロイっ・・・!」 バサ、とも、ゴト、ともつかない音が遠くでした。 傘が倒れたんだと思った。ロイが、持っていた傘を投げ出したんだと思った。 ぱたぱたと走ってくる音が鳴る。ロイの靴がコンクリートを規則正しく叩くから、目を覆っていてもそれが足音なんだと気付く。その音が、丸くなってしゃがみ込むオレのすぐ側で止まった。涙とかいう迷惑千万な横着者は万物の輪郭をいたずらに歪ませ、そのいたずらされた視界という狭い世界の片隅に、困ったように佇むロイの長い足が見えた。 視界の届くところにいる。こんな狭い世界の中にいる。 滲んでいたって、わかる。 それはオレの細くて頼りない手が、ちゃんと届く場所。 「・・・・エド」 困惑するように震えた声は、なにがなんだかわからないぐらい、色んな事が詰まっていた。それらの思いを全て一言で表せる言葉なんて存在しないから、とにかく名前を呼んだ、というような感じだった。オレもそうだった、だからひたすら名前を呼んだ。 名前というのはこの肉体の固有名詞として与えられるものだけれど、その時に聞いたロイの声は、肉体よりも魂の名前を呼ばれたみたいに、自分でもわからないぐらい奥の方へ響いた。大きく魂が揺さぶられた。揺さぶられて、愛撫されるみたいにして、やっぱり、涙が出た。 怒りとか悔しさとか悲しさとか感動とか、涙っていうものは無差別にでるなぁと思っていたけれど、中身はどうあれ“何か”が魂に響いたとき、それは出るのだと結論した。 走馬灯が見えたとき、しぬのかなぁ、と思った。 どうやら、しぬみたいだった。 ロイがすぐそこに居て、それが幸せで、しぬのだろうと思った。 心臓が止まって息をしなくなって絶命することだけが「しぬ」というものではないような、そんな調子に乗った考えが頭をかすめたからだ。 魂の名を呼ばれて、打てば響くといったように呼応した。 すぐ傍らにあったロイの身体に、いつものようにロイの腹部に、突進するみたいにして飛び込んだ。ここにもしもドライヤーがあったなら、すぐにでも、髪を乾かして欲しい。あの暖かな風と一緒に、頭を撫でて欲しかった。 ちょっと硬くて骨ばったような、そんなロイのお腹はいつだって最高のクッションとして、オレを受け止める。百階建ての高層ビルから落ちたとしたって、このクッションが下にあるのなら、オレは生還できそうな気さえした。 飛び込まれた衝撃で倒れないように慌てて後ろに足を出したロイが、 「エド」と、またオレの名前を呼んだ。 たったの数日の間だったのに、もう何年間も、いっそ生まれて初めて聞いたかのように、新鮮に感動的に感じられた。耳がじんわりと熱くなる。まるでその言葉が栄養だとでも言うかのように、この耳は熱を持ったような脈を打つような、そんな小さな鼓動を聞く。 えぐえぐ泣きじゃくるオレが説得力のない涙声で詰る。 「なんで、なんで無視すんだよ卑怯だろそんなの・・・!」ロイの背中をぎゅうっと抱き寄せた。 ごめん、と殊勝に謝ったロイは言う。「俺も、どうしていいんだかわかんなくて、混乱してた」 そう言ってオレの頭を優しく撫でた。戯れるみたいに撫でてくれる、といつも感じる。 「ごめんな」 もう一度ロイはそう謝罪して、オレは、謝罪なんて要らないのにと思う。もっと違う言葉が欲しいのにと思う。どんな言葉が欲しいかなんてオレ自身もよくわかんなくて一概には言えないけれど、謝罪なんかではないことは確かだった。 「もっと、言いたかったことがいっぱいあったんだけどな、全然駄目だ」そんなふうに漏らしたロイがオレの様子を伺うようにして、続けてオレの頭上から声を降らす。 「・・・・怒ってないのか?」 「おこってない、おこってないよ・・・っ!」頭を力なく横に振りながら、決死で訴えた。精一杯の即答だった。「あ、でも、無視してたことはおこってるからな!」涙と鼻水の所為で、全ての文字から棘棘しい角がなくなったような発音になった。 眉を力いっぱい吊り上げて、ひどい顔のままロイを見上げたら、ロイは困ったように笑ってみせた。その笑い顔を見て、ひどい顔に拍車がかかった。吊りあげた筈の眉はぐにゃりと斜め下に歪み、身体中の血が透明になって出ているのではないかと思うような量になってきた涙が際限なく出てきてしまう。くそう、なんだか、悔しい。なんでオレばっかり泣いているんだ。 また顔はロイのワイシャツに埋めて(洗って返そうか、と懸念するほど濡らしてしまっている)、一番、気になっていた、そして一番怖い問いを、投げる。 「ロイは、」 鼻水を啜った。雰囲気ぶちこわし、とか、いっぱいいっぱいすぎてそんな余裕言っていられない。 「オレのことが、すきなの・・・?」 「何を今更」呆れ返ったようなこの声音も、耳が喜んで栄養を摂るかのように感受する。 「・・・ねえ、それは、」もしかしなくても、というくどいオレの前置きを見透かしたように遮って、 「友達としてじゃなくて、な」先回りされた。 ぽん、と今度は軽く叩くように後頭部をタッチされた。今の言葉をちゃんと、この頭で理解できたのか?と問われているかのようだった。 そしてロイの杞憂など差し置いてしっかりその言葉を理解したこの脳が、たぶん指令を出したんだ。 頬が熱くなるような指令を。 ああ、もしかしたら、 (この言葉を聞きたかったのかもしれない) くだらない幻想さながらの再確認を、したかっただけなのかもしれなかった。 ちょっぴり怯んだけれど、何度も頭でシミュレーションした文句をぶつけてやらねばならなかった。 「だ、だからって、極端なんだよ!す、すきだったら、友達じゃ、いられないのかよ、恋人か他人か、どっちかじゃないと駄目なの・・・っ」 もっと、もっと雄雄しくて剛毅で格好良い台詞のはずだったのに、全然だ。まるで小学生然の、ただの駄々っ子ないし地団駄だ。 ロイは悄然として口を噤んだ。今、どんな気持ちでオレを抱えているのだろう? オレを見下ろす目は、恋愛なのか、それとも相棒なのか、頭を埋めるオレには知る術もない。 「・・・・おれは、まだ、すき、とか、そういうのよくわかんないし、だから、まだ、」 ロイの背中に回った手で、ワイシャツを遮二無二握る。その布から、勇気を絞り取るかのように。「ともだち、じゃ、だめかなぁ・・・・」 ロイがオレの髪を指先で楽しそうに弄る。その顔はきっと穏やかに笑んでいる。見なくたってわかる。 「うん。俺はもう、一個大きなわがまま聞いてもらっちゃったからね、あとはエドの好きなようにしていいよ」 (・・・ん?) “大きなわがまま”の意味を汲むまでに、二十秒。 それが始業式のときの一件なんだと気がついて、一段と熱を帯びた顔を隠すように、慌てて俯いた。 「俺は待つから」 そう言い詰めて、しばらくの間を置くと、ロイは何かを思い出したらしく、弾けるようにくすっと笑った。疑問符を点してロイの顔をオレが見上げる。 「そういや、ブロッシュに一喝入れられたよ。エドが体育で倒れたとき、俺が駆け寄ろうかどうしようかまごついて悩んでるもんだから、ブロッシュが堪忍の緒切らしたみたいでさ。『エドちゃんが本当に助けを求めてんのは誰だと思ってんだ!頭冷やせ!』って怒鳴られた」 自嘲の笑みを漏らして、言葉を継いだ。「殴られはしなかったけど、殴られるような勢いだった、あれは」 「・・・あのとき、カレー、持ってきたの、ロイでしょ」 あ、やっぱりばれたか、とロイは笑った。 エド、福神漬け食べないんだもんな。 「そりゃ、わかるよ。あたりまえだろ」 つん、と唇を尖らせ、オレを誰だと思ってるんだ、と言外に匂わせた。そしてコンクリートに投げ捨てられたバッグからごそごそと、小さな袋を取り出す。 「これ」 と無愛想に言ってロイに渡す。「おまえ、誕生日だったろ。もうすぎちゃったけどさ」始業式の次の日だったのだ。 「渡そうと思ってたのに」ぶぅぶぅ批判を唱えながら、苦笑しながらも嬉しそうに袋をロイが開く。 前もって買っておいた、黄色のピアスだ。二学期からは新しいのをつけようって、決めていた。 「いいね、黄色」お礼も言わずにまずロイはそうピアスに向かって告げた。「少し進んでよし、だ」 その意味深な言葉に眉を寄せいぶかしむオレに、いつもの余裕な笑みで囁いた。 「赤は“止まれ”。黄色は渋々許可だ。もう少し進んでいい」そう意味のわからないことを言って、オレの前髪を掻きあげたかと思うと、額にキスをする。「“友達”止まりは終わり」 赤と青の間、ニュートラルな色で非常にいいね、とロイは呑気に感嘆した。額を押さえて呼吸の止まっているオレなど露知らず。 だからつまり、友達と恋人の間、とか、そういう馬鹿なことを奴は言いたがっているわけで、 「次は青だ」 そうふざけて笑うロイに、 「お、お前は、ほんっとに、性懲りもない・・・!」と薄弱に抗った。 オレの引いた“友達たるもの、これ以上進むべからず”のホワイトラインに少しずつ近づいて、もうすぐ、しかも堂々と気圧されず、超えようとしているやつがいる。 今、そのライン上に立っているやつがいる。 オレは、ある意味で、身の危険が迫っているのに、それに気付いているのに、 (どうして押し返したりしないんだろう) そんなの知るか、と自分に言い聞かせて、「あと、これも、返すから。いらないなんて言うなよ」ポケットから出した赤ピアスの片割れ、ロイの分を渡す。 そうした後で、もう一度バッグの中をあさってネクタイを取り出した。 「ネクタイ結んで」 ずっとやって欲しかった。 自分の無力さを再確認する嗜虐的な行為にも見えるけれど、相棒の強大さも確認できるのが、ネクタイだと思う。 その懇請を聞いて、やっぱり口元だけでくすりと笑ったロイが、 「“くれろ”は?」からかうように言った。 「・・・・結んでくれろ」 了解、と言ってロイが解顔した。 そして瞬く間に結び終えると、気付いたように黄色ピアスを顔の横に掲げて、ありがと、と言った。 しかしながら、ピアスの嵌まっていないピアス穴というのは、すごく間抜けに見えるものだ。 ネクタイの締まっていない制服も同じく、間抜けに見えるように。 だからオレもロイも、いつものアイテムがひとつずつ欠けていた。やっぱり二人揃って、周囲には間抜けにうつっていたのかもしれなかった。 まだ完全には泣き止まないオレをロイが宥めながら、歩き出す。そう泣くなよ、と慰められるたびに、誰の所為だよ、と反論する。堂々巡りだ。 とっぷりと日は暮れて、あたりは薄暗くなり、街灯が灯り始めていた。躊躇うような優柔不断のその光に照らされた歩道を二人でてくてく歩いていく。 目はやっぱり泣き腫らすものだからずんと重くて、だけど、それは全然重くなかった。昨日の重さとはまるで違う重圧。幸という文字が、その重圧を一緒に支えてくれる。 オレはすっかりロイの家まで歩いていくつもりだったのに、オレのアパートの前まで来ると、ロイが諭すように言った。 「エドは自分の家に帰れ」 ロイもすっかりオレがロイ宅まで行くと思っているだろうと予測していたので、オレは虚を衝かれたようにきょとんとしてしまった。そして正気が手元に戻ってくると、「えぇー、なんでー」と地団駄を喚き散らす。 「エドが俺の家まで来て、百パーセント安全か、まだ言い切れないからな」 曖昧な表情でそう呟いて、ロイの目論んだ通りに口を閉ざしたオレに、じゃあな、また明日、と手を振って、歩き出した。 「ちょ、ちょっと待って!そこで待ってて!」もうすぐ闇に埋没しそうになった背中を呼び止めて、慌ててアパートに入って、作り置きしてあったカレーを大きめの器に盛ってラップをし、外で所在なさげに立ち止まっているロイに渡した。 「これ、昨日作ったやつだから。いっぱい作っちゃって、食べきれないから」なんでか、弁解するかのような語調になってしまった。「どうせ、ロクなもん食ってねえんだろ」 失礼な、とロイはちょっと苦笑したが、「ありがとうございます」と真摯にお礼をした。 「なんか、貰ってばっかだな、俺」 「ま、オレの出来が良すぎるからなんだよね」 「はいはい」 器と、片方はオレに渡した、残りのひとつの黄色いピアスと赤ピアスを抱えて、ロイは秋の初めの、冷たくて少し怖いような闇に消えていった。 その後姿が見えなくなったのに、オレは綻んだ口元で呟いた。 「またあした」 家に入って、充電しっぱなしで完全に忘れていた携帯を開いて確認したら、メールが五通届いていた。 うち二通がブロッシュからの心配メールで、一通が他のクラスメートでブロッシュとほぼ同文。残りの二通は、始業式にメアド交換とやらをした女の子たちからの、緊張がまざまざと滲み出ているメールだった。 オレは少し指を止めて悩んだけれど、『電源』の赤い電話マークを押して、待ち受けに戻した。映画『メトロ』のイメージ画像である待ち受けが表示される。ロイがパソコンで落としてくれたやつだ。 女の子のメールを無視しちゃうオレってどうなんだろう、と暫し懊悩に苛まれたけれど、今は色んな嬉しさでいっぱいだったので、まぁいいやと思い直してベッドに寝転んだ。 今はもう、一人の相棒に対してでいっぱいいっぱいで、他の女の子とか全然考えている余裕が無い。 そういう颯颯とした余裕がもう少し欲しいとは思うけれど、こんなふうにいっぱいいっぱいになってしまう自分も、そんなに嫌いではないような気がした。今はなんだってポジティブに考えられる。 よくやった、オレ、と自分を激励した。枕に頬をすりよせて、へへへ、と笑う。 今日の勇往邁進なオレは、どんな賢者にも勇者にも、負けないだろうと思った。 あっ、と思い出したように飛び起きて、再度携帯を開いた。 『新規メール作成』画面をうつしだして、アドレス帳から、円周率が延々と連なるロイのアドレスを選択する。 ちょっとだけ躊躇ってから、勇を鼓して、文字を打った。 『明日、モーニングコールお願いね』 だって、また遅刻してしまう。欠席日数だって心配だし──なんて、託けだ。ほんとは電話がほしいだけ。 そこで改行して、最後のくだりを打ち出した。さっき、伝えられなかった言葉。 『またあした』 明日の朝、きっと喧しく喚いてオレを起こしてくれるだろう、久しく使っていなかった自宅の電話が誇らしそうにサイドボードの上に鎮座していた。 『送信完了』。 ヤマdU三便です!なかなおりー もうちょっと喧嘩してたほうが良かったでしょうか(笑) 仲直りは仲直りなんですがまだ第二部は終わりません・・!とりあえず山をひとつ越えた思いで・・orz お疲れ様でございました・・! |