五位、四二二点、レガニー・ウオルナット。 四位、四二五点、シタン・アルダー・・・・。 聖倫学園、ここは入試は勿論、定期テストの難易度だって半端じゃない。四百点取れば、凡そ四百人人在学する一学年の十本指には悠々入れるし、四四〇点を上回れば、一位は確定といわれる。が、四四〇点以上が叩き出されることは滅多にないそうだ。 しかし、四四〇を上回る人物は、居た。本当、珍しいんですって。人を珍種呼ばわりするなって言われそうですけれども・・・・。 三位、四四一点、ギアム・タキアン。 えっ、誰よ。 って言わないであげてください。しょうがないんですから。 そう、四四〇点を上回り、四位とは歴然の差を見せる超秀才君、タキアンさんね。それ逆に視界見えにくくするんじゃないの、って不安になってしまうぐらい度の強い、丸い黒縁眼鏡をかけて、常に単語帳その他を持ち歩く典型的な『熱血勉強家』さんですな。 そんな勉強家さんには、オレらって、本当目の敵にされる立場なんだろうな。 二位、四八五点、ロイ・マスタング。 オレの隣に立つ、二位が小さく舌打ちをした。 まったくお前はいつ勉強してるんだ。そう悪態をつく二位。 一位は、えー、もう別に記す必要もないですよね? なんちって。ワタクシ、今、鼻が雲を掴むぐらい高くなっているので。 「いやー残念だったねマスタング君!」はっはっは、と余裕綽々でオレが叱咤激励してやる。 するとマスタング君は、フン、と鼻を鳴らして、「お前がいなければ首席だ」と開き直った。 「なんだそりゃ! その言い訳突き詰めればビリまで適応すんだろ!」 そうです、テストでビリになられた事がある方、どうぞ落ち込まないで。アナタ以外の生徒がいなければ、アナタは首席なんですから。 一位、四九四点、エドワード・エルリック。 黒縁メガネのタキアン君が、上位三十位までが記載されているこの掲示板の前で、心底遺憾千万そうに、ブルブル震えながら切歯扼腕たる風情を露呈している。きっと、自分以外の人間が一位をとることなんて、青天の霹靂的出来事だったんだろうな、中学校では。 それどころか、高校では二人も上がいる。しかも、遥か上に。そりゃあさぞ悔しいことだろう。 オレとロイは、なんの合図も指示もなしに、黙ってタキアン君の傍らに立った。 そして、悔恨から小刻みに揺れる彼の肩をオレが慰撫するように、ポン、と叩いて、言った。 「だいじょうぶ、オレたちさえいなければ、」 「お前は首席なんだからな」 きょとんとする眼鏡君に、最後に二人で声を重ねて、 「そう落ち込むなって」 --第三便-- 「だからその二人にボールを渡すなー!」 体育教師、筋肉の塊の怒号が木霊する。こいつの名前なんだっけな、全然覚えてねえや。バ、バン、バ・・・・? 「バ」がついたような気がしたんだけど。オレの脳内の秤が「これは重要ではない」と判断したものにいたっては、全然記憶出来ない性質なんだよな。 それはさておき、只今、ここ体育館では白熱したバスケの試合が行われている。 現在、オレのチームの全得点は三十八で、その内の二十五点はロイの得点。オレは得点こそ少ないけれども、秀逸したパスワークとボール運びで相手チームを翻弄し、鬼才を放つポイントガートとしてゲームの核にいる訳だ。得点が少ない理由は、決して身長なんかではない、全然ない、誰だ、そんな不要な勘繰りを入れる奴は! 敢えてシュートをしないんです! ロイは持ち前の長身を生かして(くそう、やはりシュートは身長が功を奏すのか・・・・い、いや、そんなことはない)、ゴール下は勿論3ポイントまで神懸り的な確率でシュートを決めていく。 オレは目線を前に向けたまま、ドリブルをしながら斜め後ろ四十五度のあたりにロイがいることを確認する。マークきつそうだな、何やってんだ、もう。 ゴール下あたりまで到達し、当然のごとくオレがロイにパスを回す──ロイのマークが目を鋭く光らせ、オレのマークがパスカットへ手を伸ばしたところで、パスと見せかけて振り向きざまにシュート。とう! ガコッ、と鈍い音を立てて、ボールがリングに当たる。 「げっ」まずい、これは外れるパターン。くそう、この身長め・・・・! 「ロイ! リバウンド!」オレが指示を出すと、 「無茶言うな」と毒突きつつもロイは既にゴールへ疾駆している。 そのままボールを支配下に置いて易々とシュートを決めるロイを見ていると、オレはあの長身が物凄く欲しくなってしまう。 くそう、オレが牛乳さえ飲めれば・・・・。 「牛乳を飲め、牛乳を」 ロイは体操着の襟で顔の汗を拭いながら、人がちょうど今感傷に耽っていることをズケズケ指弾しやがった。 オレのセンチメンタリズムを臆面もなく抉りやがって。 「うるっせえんだキサマあぁ!」障害物競走のようにゴールの網を潜り抜けてきて、床にボコンッと跳ねたボールをロイに投げつけたが、ひらりとかわされた。 誰かが向こうで、「せんせー、ロイとエドが仲間割れしてまーす」と言ったのが聞こえた。 「ネクタイを結んでくれろ」 オレは今尚このネクタイとやらの縛り方を覚えていないので、言いながら、黒を基調とした色彩のネクタイをロイに差し出した。 「何語だそれは。それは命令口調なのか? 懇請口調なのか?」 皮肉りながらも器用な手先であっという間に結んでくれる。 「五分五分、かな」 「というかいい加減覚えろ、これぐらい。くるっと回してくるっと捻ってするっと通すんだ。お前の記憶力を持ってすればすぐだろ」 「そんな死ぬほど抽象的な説明じゃ全然わかりません。『くるっと回してくるっと捻ってするっと通す』ってナンデスカソレ、そんな説明じゃ針に糸を通すことぐらいしかできないわい。もっとオレのイマジネーションを喚起させるような具体的な説明をよろしく頼むよ」 「お前わりとむかつくな」 「そりゃどうもありがとう。さっきの仕返しだよーだ、ろ」 「だから語尾に『ろ』がつくそれは何語なんだ。む、なんか曲がってるな」 どうやら出来栄えがお気に召さないらしく、そう独りごちながら、もう一度オレのネクタイを外して『くるっと回してくるっと捻ってするっと通』してくれる。 ロイが『くるっと回してくるっと捻ってするっと通』している間に、机上のロイのノートをなんとなく手にとってなんとなくパラパラ見た。 「おー、キレイにノート取ってませんね、君。オレも取ってないけど・・・・おや?」 シャーペンの薄い几帳面な字と、赤いペンで書かれた文字がほんの少し羅列する構成でできたノートを半分ぐらいまでパラパラ見たところで、裏表紙と最後のページに挟まっていたルーズリーフが三枚ほど、ズバッと出てきた。 そう、ズバッと。ふつう、紙が重力に従って床へ落ちる場合、「はらり」とかいう擬音が用いられるけれど、このルーズリーフは、本当に「ズバッ」と落ちてきた。 何故なら、そのルーズリーフには裏表どちらにもぎっしりとシールが貼られていて、一般のルーズリーフの三倍ぐらいの重さになっていたからだ。 「なにこれ?」 「ああ、そんなとこに紛れてたのか」ネクタイを結び終えて(今度はお気に召したらしい)、事も無げにロイは答えた。オレの質問の回答には全然なっていないけれど。 刮眼すると、それらのシールは全部、プリクラとかいう代物だった。あの、写真がシールになってるやつね、オレ写真嫌いだから、基本あれも嫌いなんだよな。 ロイが所持していたんだから、当然ロイも写っているのかと思いきや、そこにはたったの一枚もロイが写っているシールはなかった。女の子ばっかりで、どれも見事に粒揃い。 「・・・・お前、こういうカワイイ子の写真とか集める趣味あんの? うわー、金輪際オレに近寄るな」 「んな訳あるか・・・・」呆れはてたようなロイの声音。 「まあ冗談はさておき、これは誰?」適当に目に付いた子を指差す。 「元、彼女」 「ぬ! こっちは?」 「元、彼女」 「うへ! これは?」 「元、彼女」 「コレもコレもコレもこれもこれもこれもこれもこれも、ぜーんぶ、元、彼女?」 「そう」 「あへ!」 「中学のときの彼女の写真見せろって言われたから、持ってきた」 「へえ・・・・すっげえ数だなしかし・・・・」 繁々とその紙切れを眺めてしまった。ルーズリーフたった三枚といえど、裏表にぎっしり貼ってあったら結構な数だ。 「わかった、わかったぞ、お前が首席を取れない理由」 「は?」 「色恋沙汰なんかに惚けているからですよ、君」 ロイが、はいはい、と興味なさげに呟いた。 これだけの人数と付き合ったっていうのも凄いがしかし、これだけの人数と別れ話をしたっていうのもすごいよな。まあいくつか自然消滅もあるだろうけど。 ・・・・・え?オレですか? いや、ここで本当にロイを凌ぐほどの恋愛経験を滔滔と語れたらものすごく格好良いとは思うんだ。思うよ、うん。けど、なんだか、如何せんこの女顔っていうのは、キャーキャー黄色い声はたくさん耳にできるんだけど、恋愛対象にはなかなかなれないようでして・・・・・。 ほんと、忌々しいだけの代物なんですよ、コレ。まあ、そんなオレの恋愛遍歴なんかを気にする暇がおありなら、明日の天気でも気にかけていた方が、よっぽど実を結ぶというものですぞ。 「不公平だ! どうしてこう違うんだ、どこが違うんだ! オレもロイも目と鼻と口がついているのになんでこう差がでるんだっ」 「まあ、ネクタイひとつも結べないからじゃ、ないんでしょうか」白々しく両手を広げてロイが肩を竦める。 「あと、牛乳が飲めないからなんじゃ、ないんでしょうか」 「なんだとキサマぁあぁ!」 ロイのネクタイをぎゅーっときつく締める。後ろ側にくる紐を下に引くとネクタイが締まる、ということぐらいはわかっているのだ。ロイが「ぐえっ」と呻いた。 ざまあみろ! コーン、コーン、と二つの短くなったチビチョークがオレとロイの額に当たった。 「そこッ!」 うーん、このチョークのコントロールがあれば、バスケのシュートは百発百中だろうな、と額を擦りながら考えた。 今は授業中だったのですな。 私語を慎んだのはいいけれど、その途端オレたちは体育の疲弊からぐーすか寝始めた。 夢の中のオレは身長一八〇センチで、バスケのシュートもバシバシ決まる訳だ。爽快。 輝く汗を散らしながら、オレは背後からめちゃくちゃ可愛い声で呼び止められる。 エドワード先輩、付き合ってください! はは、ほんと、参っちゃうな、って感じ。 「こらア! 首席二人!」 っていう怒声が目覚まし代わり。二つ目のチョークが後頭部に激突。 夢見最高だったのに、邪魔しやがって。 堪忍の緒が切れたオレたちは、一斉に席から立ち上がった。 「「先生の授業なんて聞かなくても首席は取れます」」 重なったロイの声に、「お前は首席じゃねえだろ!」と注釈を入れる。 「エドは見ないものとして考えるから首席だ」 「またそれか!」 まあいいや。こめかみに青筋を立てている教師に向かって、これまた声をダブらせて言った。 「具合が悪いので休養室へ行ってきます」 *** 「ちょっと今一個しかベッドが空いてないのよねえ・・・・」 オレとロイが休養室へ訪れると、そんな返事が待っていた。休養室──別名、サボリ魔の坩堝。 体育後で疲労困憊の人間を優先すべきだ、まったく。 「え、じゃあソファとか」オレが提案すると、ソファは現在書類が並べてあって使えないのだという。確かに、整然と紙切れが並列していた。 「片方教室に戻る? それとも、二人で一個のベッドで寝れる?」 究極の二択だ。どっちもどっち・・・・! 「おい、お前戻れよ」 オレが肘でロイをぐいと押す。ロイも断固として首を縦に振らない。「嫌だ」 「エドが戻れ、今日の得点王は俺だ」 「関係ねえだろそんなの!」 「ちょっとアナタたち、元気なんじゃないの」保健教師が水をさす。 「いえ、腹が死ぬほど痛いです」オレは腹を心底しんどそうに擦る。 「頭痛が酷くて眩暈がします、おっと」ロイがいかにもといったふうによろけた。 オレたちは暫し睨み合ったが、渋々空いているベッドへ二人で向かうしか手はなかった。 (おい、もっとそっち行けよ、ったく、デカい図体しやがって) (お前俺を落とす気か、エドこそもっと壁に寄れるだろ) (わかってらあ! いいか、ギリギリまで向こう行けよな! まったく、何が悲しくてヤローと同じベッドで寝にゃいかんのだ、ホモじゃあるまいし) (こっちのセリフだ) お互いに、狭い、狭いと文句を垂れながら背中合わせで横に眠りにつく。 どんなに壁とベッドの淵へ寄っても、二枚の背中の距離は十五センチ程度だった。 今、思い返せば、オレには本当の「男友達」なんて一人もいなかったのではないか。 心の底から、そう、思う。 容姿的にも成績的にも中学でひときわ浮いていただろうオレは、自分で言うのもかなり難だし情けないけれど「高嶺の花」的存在だったらしく、やっぱり周りはどこかオレに対して敬遠の念を抱いていた。 前回話したとおり、実に色んな災難にも見舞われたしその都度、「友達」って存在は少しずつオレから遠ざかっていく。 オレだって生身の人間だからそれはそれなりに辛かったし、自分に災難を降りかけた原因の野卑な奴らにはもちろん、周りと比較して過度に突出した自分の能力とか容姿にもなんだか苛立った。イライラした。あの場所がオレは多分、ぞっとするほど嫌いだった。 だけどある時、信頼できる奴ができた。名前は忘れた。覚えていたくもない記憶は簡単に排除できる。 仮に奴を「A」として置き換えてみるならば、オレは真にAを信頼していたし、Aは本当にいい奴だった。 細やかな気が利くし、軽妙洒脱な口話術はなかなかのもので、よく笑わされた記憶もある。 そうやって築き上げていった信頼が一思いに瓦解した理由は、やっぱりオレが散々遭わされてきた災難だった。 オレの中での「友達」の条件、一つ、オレの身に危険を晒さないこと。 たったそれだけなのに、な。 泊りがけのイベントでは、オレは必ず一人部屋に回されていた。言わずもがな、常々オレがそういった被害に遭っていることは学校側も重々承知していたからだ。 消灯時は必ず鍵を確認するように、と何度も言い聞かされ、その度うんざりする。情けなかったし不甲斐なかったし、なにより半ば人間不信に陥りそうだった。 だけど中学最後の修学旅行で、Aたっての希望で、オレはAと同室になることを許される。オレも別に構わなかったし、完全に油断していた。 あとは、もう、ご想像の通り。 今までのお前はなんだったんだ、オレはそう詰問した。その返答は、今でも耳に焼き付いて、離れない。 『お前を油断させるために決まってるだろ』 寝驚いて、飛び起きた。久しぶりに、おぞましい夢を思い出してしまった。 男と同室になって宿泊するということは、イコールこういうこと。 あまつさえ、同じベッドで眠るなんて言語道断だ── と、隣にある黒い頭に気付いた。 アホ面でぐーすか眠りこけている、男がいる。まるで隣に眠っていたオレなど眼中の外、という勢いで奴は夢の中をまだ浮遊している。 (・・・・こんなことって、そういえば、なかったな) 友達と修学旅行やなんかで、夜遅くまで恋愛や性について語らい、一緒に眠る、そんな普通で当然の思い出が、オレにはなかった。 なかったのに。 さも当然、とでも言いたげに、ロイはすやすや寝息を立てている。 ──こんなにもあっけなく、手に入った。ちょっと笑えた。 確かにここは保健室で、他に眠っている人はいるし、もしかしたら先生もいたかもしれない。 でも、オレは思わずはにかむように笑んでしまった。 「お前、友達一号、かも」 ロイの夢の中に、その囁きは届いただろうか。 木下はカタカナ名を考えるのが死ぬほど苦手なので 定期テスト3〜4位の方々の名前 あれは外国の樹木の名前を借りています(笑 バスケのシーンで、なんだかわたくし色々間違いまくっていたみたいで・・すみません・・orz な、生半可な知識を文章に盛り込むな!アホ! ご親切に教えてくださった方々、本当に有難うございました・・!恥ずかし・・! |