「待って!こ、心の準備が・・・!い、いたい!痛い!」
「まだ刺してねえっつーの!喚くな!」
とんでもないことだとは思っていたけど、いざとなると、本当にとんでもなかった。
見様によっては扇情的な危うい会話を交わすオレたちの間には、ひとつの、針。
キンキンに冷やしたオレの氷の耳朶に、尖鋭でどこか安全なのか全然わからない“安全”ピンが行進してくる。
妖しく光に反射するその針が、己の耳朶を貫通し穴をあけるというこの目の前の事実に、オレはもはや眩暈さながらの錯覚に陥っていた。痛い、まだ針が刺さってないのに耳が痛いよ!
先入観っていうのは恐い。
数分前に「よし、いっちょやるぜ!」と決意を新たにしたのも束の間、今はもう向かってくる針を摘んだロイの手をがっしと制止するのに一心不乱だ。
「や、やっぱ病院に行こう!びょ、病院でやってもらおう!」狼狽しもたつくオレに、
「ったく、そんなだから女々しいだとか言われるんだ。“聖学の姫君”チャン」
耳にちっこい穴をあけるだろう、とかほざくロイの揶揄嘲弄にカチンときたオレは、ロイの手から安全ピンという名の凶器を奪い取った。
「なんだと!じゃあロイが先にやれ!」
「な、俺はまだ冷やしてないんだぞ!」
「だったら早く冷やせ!」
不承不承耳朶を冷やし始めるロイを眼光鋭く傍観し、冷やし終えるとすぐさま耳朶貫通に取り掛かった。
そして案の定、針を持って悠然と行進しはじめたオレの腕を、蒼白な顔をしたロイの手が制止する。日光を浴びた植物が光合成を行うように、これも当然の連鎖反応。
「ま、待て、ちょっと待て、まだだ」
「ほぅら怖いんじゃねーか!ざまあみさらせ!」
ここで流れた暫しの沈黙の中で、オレたちは目線で会話をする。
(やっぱり病院だよ、な)
(そうだな、それがいいかもな、それがいい)
(うん、そうしよう)
完璧なテレパシーと緻密なアイコンタクト。意思疎通に、会話なんて必要ない。

オレたちは沈黙を守ったまま、虚空を貫き蕭然と地に根を張る青竹のごとく、凛然と立ち上がる。
「「保険証!」」


★三毛猫ヤマト★
--第四便--



新入生オリエンテーション。
生徒同士は然ることながら、教員たちともぜひぜひ親睦を深め合ってみましょうや、というのが主旨の、高校生活の中で最も初めにやってくる宿泊イベント。
部屋割りは一部屋2人から4人、宿泊先はバスで20分という超近場の、掲げられている『旅館』という看板が真っ赤になって恥らってしまうような限りなく民宿に近い宿泊施設。
担任の“ワ”が(オレはまだこいつの名前を覚えていない、ワ、ワイ・・・なんだっけ?)部屋割りをするべく、黒板に17個の粗雑な四角い枠を描く。それによるとどうやら2人部屋が5部屋、3人部屋が6部屋、4人部屋3部屋がということらしい。そしてそれに基づいて“ワ”が勝手に振り分けてしまうみたいだ。
「随分遅えオリエンテーションだよな、もうじき6月だっつーの」オレが後ろの席に座るロイにぼそぼそ話しかける。反応はなし。ロイは口を噤んだまま黒板を見るともなく見ている。
このロイのキレイな無視は同調の意だろうが、それでもオレはスルーされたことに合点がいかなかったので「・・・無視すんなっつーの、ばーか」と、不貞腐れてひとりごちた。
席順からして、オレが最初に部屋を振り当てられることになった。
「エルリックと同室なのは──」
“ワ”がそこまで言ったところで、クラスメイトの8割が俊敏に挙手した。ちなみに、オレが属するこの最優秀クラスに女子はいない。ので、挙手をしたのも当然ながら全員野郎共。まったく、しんでしまえ。
その粗野きわまりない生徒たちの挙動を黙殺し、適度の常識は兼ね備えているらしい“ワ”はいささか呆れかえった声音で、
「・・・マスタングでいいな?」
賛同を求めてきた。
しかしながらオレの一存で首肯するわけにはいかなかったので、後ろを振り向いて本人の同意を確かめようとした。それでもやっぱりロイは肘を突きつつ黒板のほうをぼうっと見ているので、反論も異存も異議もないみたいだ。
オレは再度“ワ”の方に向きかえった。
「いいみたいです」



新入生オリエンテーションは、最悪の気分で幕を開けた。

7組から10組の生徒が、此処、旅館「いろは館」に宿泊する。他のクラスの宿泊先は別だそうだ。
バスに乗りおちおち寝てもいられない短時間で民宿さながらの風情を呈す旅館もどきへ到着し(奮発して先日新しく購入したアルバムの半分も聞くことができなかった)、早々と大広間への召集がかかる。
そういった際基本的に生徒に拒否権はないので、言われるがまま大広間へと重い荷物を持って移動する。
ところで、この旅行の荷物量ってどうしてこう人によって差があるのかがわからない。朝起きて髪をとかして、夜風呂に入って歯を磨いて眠る、この一連の生活は少なくともこの二日間は皆同じように過ごすというのに、オレみたいにゴロゴロ転がす旅行カバンでないと入りきらない量の荷物を持ってくる奴もいれば、ロイのようにコンパクトなトートバッグで用が足りるという奴もいる。
オレは最初、ロイが旅行帰りに塾にでも行くのかと思った。あれは大多数が塾なんかに持っていきそうな、多少ゆったりはしているけれどもおおよそ教科書サイズのバッグだからだ。しおりにも(しおりの表紙には、デフォルメされてはいたが、明らかにオレとロイだとわかる人物のイラストがでんと載っていた。それだけでオレは大分とこの旅行に対して萎えていた)<<持ち物リスト>>なるものが記載されているというのに、この荷物の大差はなんなのだろうか。
脱線したので話を戻して、オレとロイが大広間へと移動しているときのこと。
総勢4クラスにわたる160人が同時に移動しているのだ、案の定大広間へと続く廊下は芋を洗うといった感じでごった返していた。
そんな雑踏の中でオレが何かに躓いてよろけたので、隣をいそいそと歩いていた一人の女子生徒にぶつかってしまう。
「あ、ごめん」という謝罪は、「あ、ご・・・」で止まってしまった。息を呑んでしまったからだ。
何故かって?
そのぶつかった少女がきわめて艶麗たる姿態で、一瞬にしてオレのハートが射抜かれてしまったから──なんていうロマンチックな展開だったら、ほんと、良かった。オレはこちらを推進したいね、心から。
でも残念ながら、息を呑んだ理由は別だった。
オレが衝突したことによって、彼女のバッグかポケットかそのへんから、バサッという雑然とした音を伴って十数枚の写真が床にばら撒かれた。
落ちた写真は不特定多数、まあ大体15枚くらいだろう。そしてそれらの光沢紙には、オレとロイしか写っていない。ばっちりカメラ目線でないところからして、千パーセント隠し撮り。
隣で、「はは」とロイが無感情に笑う。
それだけなら、まあかなりへこむけれども、まだ、許せないでもなかった。しかし、重なった写真の中で一番上になっていた、保健室のベッドで眠るオレたちの寝顔の写真だけには、本気で涙が出そうになってしまった。
あまつさえ、オレたちの顔の周りを囲むようにして、赤い油性のペンでハートマークなんか描かれていたときには、オレはその場からマッハの速度で脱走して深海へ身を投げ出したくなるような心地だった。
写真に乱舞するこのハートという記号を、ここまで憎悪が含蓄した視線で睥睨したことは今までなかった。
泡を食ってそれらの写真を拾い集め、そそくさと退散した女生徒の後姿を、無気力な瞳で見つめた。
「まあ、よく考えればすぐわかることだな。俺たちがむしろ馬鹿だった」
ロイが前触れもなく口火を切る。
「保健医もグルだったということだ。病気の生徒二人を同じベッドで寝かせるなんて、ふつうに考えてあり得ないことだもんな」淡々とそこまで言って、また歩を進め始めるロイに、「なんでそう、割り切って考えられるんだよ・・・」オレは深くうなだれ、悲嘆した。




オリエンテーションといっても、英語リスニングの講習があったり自己紹介ゲームと称した面白みの欠片もないゲームがあったりで瞬く間に夜の帳は下りていった。
消灯時間も迫る頃、突如、昼間はずっと行動を共にしていたロイが忽然と姿をくらましてしまう。
「ここにロイ、いる?」10組の生徒が宿泊する部屋ひとつひとつに声を掛けるがしかし、ロイの姿は見当たらない。
「あっれー、おかしいな、どこ行ったんだろあいつ」
オレが独り言のように言うと「それより、エドちゃん大貧民やろーぜ!」とクラスメイトの一人の、ブロッシュという奴が誘ってきたので「エドちゃんって言うな!」と諫言しながらもトランプの束を核とした3人の輪に入った。「悪いけど、オレ、強いよ?」
過信ではない。
そうしてオレが無駄のないシュールな手法で10回ほど3人をずたずたに叩きのめした頃、部屋の扉が勢い良く開けられた。
「ここにエド──あ、居た」
今度はロイがオレを探していたようだった。
「あ、どこ行ってたんだよお前、すげえ探しちゃっ・・・たっ!?」オレが言葉を言い終えないうちに、えりあし辺りのジャージの襟をかたく掴んで、ロイはずるずるとオレを引き摺って行く。
オレが廊下まで引き摺りだされたところで、ロイが一言、
「もう少し自分の保身を考慮しろ」と言った。
すぐにその言葉の意味を解することができなかったオレは、暫し疑問符を頭上に並べ立てたのち、今が既に消灯時間を過ぎていることを思い出してから合点がいった。
「・・・要はオレを心配してくださったのかしら!」
「どうだか」返ってくるのは取り付く島もない冷めた返答。
「ところでいずこへ出かけていらしたの」
素朴な疑問を思い出したかのように問うと、ロイは我が意を得たり、といったふうににやっと笑って、さっとバッグから袋を取り出した。布製で橙色の派手な袋には、レンタルビデオ店の店名が不遜に鎮座していた。
「借りてきた」
ロイがにやにや笑むので、オレは勘ぐり、「なになに!やらしーやつ?」と好奇心が横溢した声音で確認を取る。
「あら、そういうのがよろしかった?それは気が利きませんで、失敬」
違うのか。
「なんだよ、そういうのって宿泊イベントの醍醐味なんじゃねーの」唇をひるがえすオレ。
「知らん。俺をそこらの下卑た奴らと十把一絡げにしないでくださる」ふざけた口調なのに、淡々と喋るところがこれ、笑える。
「っつーかビデオ再生機なんてあんの?」
「DVDだ。隣の部屋からプレステ2強奪してきた」
「おーナイスすぎる!プレステ2ってDVD再生できんだっけな、そういや。っていうか持って来る奴も物好きだな、すげえ重いだろ、あれ」
「薄くなったやつ出たけどな」
・・・と、プレステについての話に切り替わったので、オレはDVDの内容を聞き忘れた。



再生が始まり、画面に大きく『DVD』という文字が映し出された。わかってるっつの。
ここでオレが改めて「結局どんな映画なの?」と問い質し、その返答に絶句し青ざめた。
「ホラー」
オレは一瞬にして、喘ぐような呼吸をするプレステ2を蛇蝎のごとく嫌悪し、すっくと立ち上がり脱出を試みようと部屋のドアへと猛進した。
そのオレの一連の行動を予見していたかのようにロイはドアの方へ先回りし、行く手を阻む。
「どけ!どいてくれ!どいてください!」
半泣きになって憤るオレを、人を食ったような態度でニヤニヤ見下ろしながら、ロイはオレを容易く抱えあげてテレビの前へ運んだ。
「や、やめろ!やめてくれ!やめてええぇぇ!」
ロイはげらげら笑っている。このやろう!人を馬鹿にしやがって・・・!
そのままロイの足の間に座らされ、腰をかたく腕で固定される。この装備はまさに絶叫マシーンよろしくの状態だ。そして文字通り、“絶叫”がオレを揉み手で待ち構えている。
目を塞いで耳を両手で叩きながら「あああああ」と言ったり、“絶叫”シーンでは後ろを振り向いてロイにしがみついたりしていたので、かなり曖昧模糊だけれど大まかなストーリーはこうだ。
主人公のミチコは風俗嬢という設定で、彼女と同じ布団で眠った男は、朝ミチコが目覚めると決まって姿を消している。不審に思ったミチコが、普段は開かずの部屋になっている隣室の扉を開くと、そこには酸鼻をきわめる異臭と共に、姿をくらました男たちの血みどろの死屍が死屍累々たる風情で重なっている(こうやって記すだけでもオレは泣きそうだ)。気味悪がったミチコは(まあ、当然だ)深夜に一体何が起こっているのか探るべく、寝室へ監視カメラを設置し一晩別の男と添い寝しながら様子を見る(いや、しかしこのミチコの探究心には甚だ脱帽する、こんなやついるかって話だ)。すると驚くことにそれらの男は、深夜に覚醒するミチコのもう一つの人格“ミサト”が(誰が名付け親なのかは定かではない、気付いたらそう呼ばれていた)包丁を片手に──うぅ、ほんと、この辺で勘弁してください。
つまりは、ミチコ本人がやってしまっていたと、そういうことですな。風俗嬢であることを心の片隅で苦痛に感じていたミチコに、その苦悩の蓄積から別な人格が生まれてしまったと。で、その憎しみゆえに自分を抱く男を次から次へと、とな。
実に発展性のない話だ。
DVDは佳境に入って、ミチコが異臭を放つ隣室を、おずおずと覗きこむシーンへと切り替わる。
「こ、こいつ馬鹿じゃねーのなんで覗くんだよどんな神経してんだこの馬鹿ぁああぎゃああぁ!!」絶叫しながらオレは180度身体を捻ってロイの胸部へ抱きつき頭を埋める。ロイはオレの狼狽に性懲りもなくゲラゲラ笑っている。
阿鼻叫喚の景観を目にしたミチコが「キャアアアア」とブラウン管の奥で叫ぶが、オレの絶叫の方が断然喧しかった。
「い、いま、こわいのうつってる!?うつってる!?」
顔を埋めたまま震える声で叫ぶと、含み笑いが乗った声が上から降ってきた。
「うつってるうつってる」
ここでまたオレがひとしきり叫喚した。「ぎゃあああぁあ!!」
「なんで見てないのに叫ぶんだ!」ロイの腹筋が痙攣している、笑っているのだ。
「あ、消えた消えた、ほら、もう大丈夫」
宥められながら前へ向き直すと、画面にはまだ薄暗い部屋の中に重なる血みどろ死体の山。
オレはもう狂ったように声を甲走らせながら再び後ろを向いてロイにしがみつく。
「うつって、こ、こわいのうつってるじゃんかぁああぁ!馬鹿ぁあぁあ!」
そして映画が終幕を迎えるまで、オレは叫びを、ロイは哄笑を撒き散らしていた。
喉がかれた。



まだ涙の混じった鼻水を啜りながら2枚布団を敷いて、なんだかもう疲れたので『夜更かし』という教員への抵抗もせずに布団に入った。
電気がパチンと落とされると、背筋がひやっと冷たくなったので、少し距離を置いたところにある隣の布団に入ったロイをちらりと見た。
奴も奴で笑い疲れているので、すぐに寝入ってしまいそうだった。
ちょ、ちょっと待て、オレより先に寝てくれるな!
オレは慌てて起き出して、布団を押してべたっとロイの布団へくっつける。
それに気付いたロイがちょっと瞼をひらいて、「なに、夜這い?」と冗談めかして呟いた。
「あほ!」
オレも少しは恥ずかしいので薄弱に詰って、毛布へ潜り込んだ。


そして深閑な雰囲気が漂う深夜2時、オレはなぜだか目を覚ます。
こう見えて枕がかわると眠れないというデリケートな悩みの持ち主なので、まぁその性癖が出たかな、とぼんやり思いながら寝返ると、隣に眠っていたはずのロイが消えていた。
オレは上半身をばね人形のようにものすごい勢いで起こした。
ドクドクと心臓が高鳴る。
み、ミチ、ミチコ・・・!
「お、オレ、み、ミチコ・・・!」
ろ、ロイを殺してしまっていたらどうしよう・・・!
冗談抜きで、切に懸念した。
頬に両手をあてて、ムンクの叫び然の苦悩に満ちた表情を浮かべた、そのとき。
「わっ!!」肩を後ろからバシンと叩かれた。犯人は一目瞭然。
声にならない叫びをあげたオレの心臓は掛け値なしに5拍休んだ。
ロイはといえば床に突っ伏して爆笑している。
「し、し、し、しねッ!!」
涙目でぜえぜえ荒い息をしながら、布団へ逃げ込んだ。


そのまた2時間後、深夜4時だ。暁といったほうがいいのだろうか。
また目が覚めて、やっぱりロイは隣にいなかった。
あとで気付いたことだけれど、ロイがごそごそ動くからその音でオレは目が覚めていたんだ。
「な、なんだよ、今度は騙されないからな、またすぐにわってやるんだろ・・・!」
ばっと背後を確認した。人影はない。馬鹿なオレはちょっぴり不安になる。
「ば、馬鹿ロイ、出てこいよ、どこかに隠れてるんだろ!わかってるぞ!」
そう言っても、しーんという静寂の返答しかない。
オレはいよいよ不安に駆られる。
「み、みちこ・・・!」
ずりずり床を這うように移動しながら、隣室へと繋がるふすまを、おそるおそる開く。ミチコの気持ちが少し分かった気がした。確かめるのも怖いけれども、確かめないのも怖いのだ。
30センチほど隙間があいて、向こうの部屋の景色が夜目にうつりこんできた。のと、ロイが「わっ!!」とふすまの後ろから頭を出したのはほぼ同時。
オレの心臓は今度は10拍休んで、呼吸も停止しただろう。
ゲラゲラ無遠慮に笑い転げるロイは、「み、ミチコって、信じるなよ・・・!」とか呟いている。余計なお世話極まりない。

まだ笑いが尾を引くロイが布団に潜り込んだので、オレはがしりとその身体を抱きしめた。ぎゅうっと強く、身動きがとれないぐらいにだ。
「絶対もう起きれないようにしてやる・・・!」
「はは、もうしないって、ホント」
「二度あることは三度あるんだ!信用できん!」
そう憤怒しながら、ようやく眠りについた。



陽光が照らして、瞼がオレンジ色に染まる。
「おい、エド、エド」と耳元でロイがオレを呼ぶ。
オレは億劫そうにそのオレンジの瞼を開き、超至近距離、目の前にあるロイの顔を認めた。
「・・・おはよう」寝ぼけ眼でそうもごもご言ったオレに、ロイが「変な誤解を招いてる」と入口の方を指差しながら脈絡のないことを返答してきた。
まだ眠気でぼうっとしながらそちらへ目をやると、クラスメイトが二人ほど、赤面且つ硬直しているのが見て取れた。
眠気が吹き飛んだ。
「う、あ、ちょっと待て!落ち着け!」オレは飛び起きて赤面しているクラスメイトの誤解を解こうとした。
2枚布団があるのに、わざわざ片方の布団で2人、しかも抱きつきながら眠っているのだから誤解を招くのも致し方ないといえば致し方ない。が。
「あ、いや、別に、薄々勘付いてたし、な・・・!」クラスメイトの片方がもう片割れに賛同を求め、その片割れもうんうん頷いた。
「勘付くなー!!」
オレは昨日から叫びっぱなしだ。酷使してすまないね、喉よ。
「いいか!オレたちは『オレの身を危険に晒さない』という条約のもとに“友達協定”を結んだんだ!だからお前たちが考えているようなあらぬ関係には絶対ならない!絶対にだ!あり得ない!いいか、ずぇったいにだ!な、ロイ同志よ!」
「友達キョーテイ?なにそれ、初耳」
(賛同しとけ、このアホ!賛同だ賛同だ賛同だ・・・!)オレが射抜くようにテレパシーを送る。
「ハイハイ、そうですね」
面倒くさそうにロイが同調を示した。
そんなわけで、オレたちは不可解な協定の下、確固たる友情を契った。
そう、“友情”の域を超えてはならないという協定のもとに。



帰りに寄ったお土産屋で、ロイがガラス棚に貼り付いて何かを熱心に吟味している。
オレがそれを覗くと、そこにはピアスがずらりと並列していた。
「お、ピアス、何、あけんの?」
現代人に多く見られるという単語のみの会話の典型でロイに問うた。
「悩んでるとこ。どうしよう、あけようか、あけまいか。どちらにせよ両耳は嫌なんだよな」
「オレもあけたいかも!たしかに、両耳はいやだけど」
ここでオレは閃いた。マンガだったら頭上にピカリと電球が点ったはずだ。ちょっと表現が古典的か。
「片耳ずつ同じピアスをつけて、これらを協定の印にしようではないか、ロイ同志よ」
「は?」間抜けた声を出すロイに、
「要するに、このピアスをつけてれば間違いなくお互いの身は安泰ということだ、フフン」
「別につけなくても安泰だって」
「あ、そう」
「まあそれでもいいけどな。何か理由が必要だ、耳に穴をあけるための踏ん切りをつけるには」
「ならキマリだ!・・・痛いかな?」
「誓約には痛みがつき物だ」
「そうなの?」
「そうなの」
「・・・ていうか同じのつけるなんて、やっぱりなんか噂されるかな」
「言わせとけ、そういうのは。人の噂も75日、ってな」
「なるほど」
そのあとオレたちは暫しの討論を交わし、赤い小さめのピアスを選んだ。割り勘でひとつ、購入する。校則なんて全然忘れていたのですよ。

ひとつずつお互いの掌に載せる。キラリと飾りが光った。

「“友達協定”、ここに発足、だ」

*TO BE CONTINUED*





ロイさんがやっと若く見えてきたかしら・・彼に「そうなの」とか言わせるのはかなりの勇気が要ります
ピアスの経緯はこんな感じで・・ふぅ
序盤は本当に進展のない退屈な流れになってしまい申し訳ないです・・;
気長にお付き合いいただければ幸いです・・!ドキドキ