「え、なんで?どうして?どうしてわざわざボクの机の上で寝るんだい?それはいやがらせかい?」 黒板に文字が綴られるときの乾いた音も、過去完了やら時制の一致やらについて云々説く教師の声も、周りのひそひそ声も失笑も、全てが子守唄に聞こえる。シャララン、もうおねむの時間よ、エドワード。ねんねんころりよ・・・。 眠いので、愚直なオレはそう唄う睡魔になんの抵抗も見せず眠ってみせようとする(睡魔が拍子抜けするぐらいにあっさりと、オレは白旗を誇らしげに掲げて降参するのだ)。大体、人間最大の欲求のうちの一つに抗ってみようなんざ、無駄きわまりない不毛な行為だ。だって、寝ないと人間は狂乱して死ぬんですよ!とある国の拷問には、『眠らせない拷問』というものがあるそうで、というのは、罪人が眠りそうになるたび鞭で引っぱたいて長期間に及び寝かせないっていうものでして、それが長く続くと罪人は堰を切ったように狂態を晒し始めるんだってさ。おー、こわこわ。ナミアムダブツ・・・。 まあそんな訳でオレは拷問なんてまっぴらごめんなので、眠いので、眠る。眠いときに眠れるって、コレ、幸せなことですよ、皆さん。そして眠る際、わざわざオレは自分の机に突っ伏さず、後ろを向いてロイの机の上に腕を乗せ、その上に頭を乗せる。 こめかみに青筋を立てながら、“ボク”とかいうむちゃくちゃ似合わない一人称でオレに迂回した文句を言うロイは、珍しくノートを広げている(でもノートに記してあるのは、高三で勉強する内容だった、二年強分の予習済)。 「うん?この高さ、ちょうど寝やすいのだよ・・・あと、ちょっとはいやがらせ。あとあと、お前が勉強してるとなんか腹立つから、邪魔をしているのと、」オレが人を食ったような表情でロイを見上げて、 「今日、二時間目のLHRで席替えだから」 ここで少し悩んで、「まあ、餞別?みたいな?」 ロイが小さく万歳した。 「わーい、今度は自分の机で寝てくれるような人が前後左右にいますように。間違ってもわざわざ後ろを向いて俺の机で寝るような人の後ろにはなりませんように、アーメン」 「つまりはオレ以外の後ろになれば問題ないのだな、ロイ氏よ」 「そうね、そういうことね、さあ、どけ。俺は珍しく勉学に励しんでるんだ」 「ちえっ」 オレはちょっぴり立腹したので、ロイが右手で器用にくるくる回していたシャーペンを取り上げて、ロイのノートの真っ白なページに、「ばーか」と書いた。ロイが「あ!貴様!」と喚いたところで、「二位のくせに」と書き足した。 「なんだと?見てろよ、中間は二位に甘んじたが、期末だ!期末!」 「ま、精精ガンバッテクダサイネ〜」応援という名の揶揄を吐き捨てながら、教科書ひとつ出ていない自分の机に突っ伏した。 そう、今日は席替え。 超絶可愛い女の子でもクラスにいる『学園天国』状態なら期待もするけど、残念ながら、本当に残念ながらこのクラスにはむさっくるしいヤローしかいないので、淡い期待も10組に詰まっている男たちに容易く無下にされる。 とりあえず、一番前は(チョークを投げられるし、寝ているとすぐ起こされるし)かなり嫌なので、それさえ回避できればいいか、なんてぼんやり考えながら眠りに落ちた。 ふー、おやすみなさい。 ところで、睡眠時間では誰にも負けないのに、どうしてクラスで一番小さいんだ、オレは? これは皆さん、目の錯覚です、オレの身体はなんだか光の反射の仕方がおかしいので、小さく見えるけれども本当は180センチぐらいあるんです。いや、ほんと。 という説明をロイにしたら、「かわいそうな人・・・」と真剣に哀れみながら言われた。 誰がだ! --第六便-- このクラスには40人在籍しているので、たとえば、ロイがオレの席の周囲になるという確率は40分のいくつな訳で、まあ、要はきわめて低い(ボクは天才だからね、あんまりキミタチのような凡人に難しい話をしないように心がけているのだよ、諸君。・・・なんて、冗談通じてくれよな、ごめんなさい)。 漸を追って党員が日々増大していっているらしい『ロイエド党』の人間なんかは、むろんオレとロイの席がまた磁石のように離れずにいることを渇望しているのだろうけど、そんな薄汚く卑しい野望が、この世界を取り巻く“運”という絶大なエネルギーというかエニグマな力のようなものを動かせるわけがない。その世界中の『くじ』というものを牛耳る能動的なエニグマに左右され、オレたちの席は、さも当然というかのように、離れた。 きれいに離れた。 非の打ち所がないぐらい、見事に離れた。 ロイエド党員は、さぞ落胆し、暗澹とした視線で新しい席順を遠目で眺めていることだろう。そのフリジティディーなエニグマに怨憎の念を抱きながら。 ロイは前回のオレの席、つまり一番左の列の一番前、そしてオレは一番右の列の後ろから二番目、という、まるで計ったかのような完全無欠さでオレたちは隔絶した。確かに磁石のようではあったのかもしれない、ただ、N極とS極で仲良くくっついていたオレたちのどちらかがミューテイトしN極になってしまったので、反発しあったのだ。パチン!さいなら! そんな訳で、こんな席順です。 黒板の字が見えづらいのだけど、オレはノートをとったりしないので、ノープロブレム。 そんな訳で、オレはまた眠るんです。 おやすみ! オレが最も嫌悪する飲食物、それは牛の乳です。厳密に言えば、牛の乳から搾取される、あの白濁色の飲み物ね。え、知ってるって?どうして?オレ、喋ったっけ?まあいいや。 オレは驚いた。オレは紐なしバンジーでもしようかと真剣に思った。 だって、世界中が牛乳に凌駕されていくんだ。 勅命。『我が国全土の飲み物を牛乳のみにせよ』。というニュースをテレビが伝え、オレは驚きのあまり飲んでいたオレンジジュースを床に零してしまった。ああ、勿体無い!最後の牛乳以外の飲み物だったのに! 慌ててスーパーに、牛乳以外の飲み物を溜め買いしに走ったけれども、時既に遅し。 建物の中は、牛乳、ミルク、MILK・・・の文字しか見当たらない。 万事休す。 絶望しながら帰宅し、渋々水道を捻った。水で我慢するしかない。 が。 管から這い出てきた液体は、白かった。 乳だ。 オレは床に膝を付いた。もうお終いだ・・・。 そうしてトイレに行く。多分これが、最後の尿意だ。 便器の蓋を開けると、普段水が溜まっている場所は、ホワイト。 ぎゅ、牛乳! 「ぎゃー!!」 ガタッと寝驚いた。オレは机の上。変な汗までかいている。 (ゆ、ゆめ・・・!)悪夢だ! こえええええ!!ミチコ並みに怖い・・・! 「ろ、ろ、ロイ聞いてくれ!今の夢──!」 今の悲境きわまりない状況をロイに伝えるべく、オレは後ろを振り向いた。 ──おや? 後ろの席には、見覚えはあるけれども、名前はまだ知らないクラスメートが驚きに屏息し口を噤んでいる。「ど、どうした、んですか?」 敬語。 あ、席替えしたのか。 「あ、や、なんでも・・・スミマセン・・・」オレはしまり悪そうに、前に向き直った。 後ろの方は、複数色使って綺麗にノートを取って、先生が歯節へ出す言葉の一字一句も聞き逃さぬよう全神経を集中させて耳を欹て、学業に勤しむ方でありました。 まさか、こんな方の机に突っ伏して眠るなんて、言語道断だ。 なんだかオレは、サバンナで悠々自適、自由奔放に暮らしていたのに、突如人間に捉えられて動物園の檻に入れられたライオンのように、一気に肩身が狭くなる思いがした。地平線まで続く土地全てが自分の領地であったのに、いきなりに自分の領地は、コンクリートのしけた作りの一室になってしまったのだ。 改めて自分の周りの席を見渡すと、馴染みのない顔、顔、顔。ワーオ。 オレは基本的に人見知りはしないし、社交性に乏しいわけでもないけれど、どちらかといえば、あまり“広く浅く”な付き合いはできない方だ。 というよりも、さっきの後ろの方の敬語からも読み取れるように、なんかオレと喋るのって緊張するらしいのね、周囲の一般人は。や、本当自惚れじゃないです、コレ。寧ろ悩みのタネ。 (同じ男だっつーの・・・)なーんで緊張するかね。わからん。 しゃちほこ張ってガチガチの肩とか、同級生の敬語とか、そういうの、鬱陶しい。 でも、そんな様相を呈す周囲を睥睨するのはもうやめた。 悪いのはオレだ。そう思うことにした。その方がずっと楽だった。 (オレがわるい) しかしながら、まだいたのか、オレに敬語を使っちゃうようなこの“緊張族”。高校では激減したんだけどな、クラスの三分の二ぐらいはもう普通なのに。順応の遅い奴だ。 まったく、しょうがないでしょ、こんな才色兼備で鶏群一鶴的人間も、いるんですよ世界には。認めてくれたまえよ。 (なんちって・・・)一人静かに、自分に憫笑した。 ひとつ欠伸をして、教室の遠く隅の方へ目を遣る。 一番前でぐーすか寝ているロイは教師に教科書で後頭部を軽く叩かれ、束の間目を覚ましたけれど、またすぐ机に伏した。教師が眉間に愁眉を刻むのを見て、オレは息を殺して笑った。 ここからの位置じゃ、ロイの背中しか見えない。 (遠いな) いつも暇な授業が、今は、輪をかけて何億倍も暇で、最早無為でいることが義務のような時間帯だった。 だって暇をつぶすための、喋り相手がいない。 ちえ、つまんねーの。帰ろうかな。 いや、しかし、先刻の悪夢をロイに話すまでは帰る気にならない。 きっと夢を話したら、馬鹿にされるだろう。『おまえ本当頭足りてねーよな』な感じで。 そんな皮肉を言ってくれる奴はロイぐらいしかいない。 そんな皮肉を聞きたいので、まだ早退はできない。 皮肉られたい? 『お前マゾ気あんじゃねえの』とか、言われたなこの前。 ま、マゾヒスト・・・。 そ、そんなはずはない! そういえば今日は、まだネクタイも縛っていない。 *** そんな感じでオレは十回ほど、後ろの席の方をロイと間違えて話しかけ、その度がっくりし、漸く昼休みがきた。 今昼休み! あと三時間もあるのか! オレは深く悲嘆しながら、項垂れた。 四時間目終了を告げるチャイムと同時に、オレは立ち上がった。日直の、起立、礼、もまるで無視してわき目もふらずロイの席まで走った。「ロイ!学食行こうぜ!」 まだ夢の中を散歩している呑気な背中を、ぐいぐい揺らして喚く。 「ローイー!がーくーしょーくー!」 これ以上オレを暇にさせんな! 昼食にはいつも学食を利用している。オレは辛党で学食のカレーは甘口だけど、これもまた一興ですな。たくさん一気に作るカレーって、これどうして美味しいんでしょうか。神秘だ! 十回ぐらい揺らしてやっと大儀そうに身体を起こしたロイは、「真夏のハエだな」と蚊取り線香のような辛辣な謗り。 鬱陶しかったらしい。ノープロブレム! 「ハラショー!合点承知の助!」 ハエは蚊取り線香でも死なないんです。鬱陶しいでしょう、そうでしょう、付きまといますよ! オレはその蚊取り線香を却って糧にして、尚わいわい喚く。 「カレーカレーカレー!はやく!学食混んじゃうだろ!」 ロイがもたつくので、学食は案の定混雑してしまっていた。 国内一の進学校というだけあって、全国から天才たちが集結するし、ここへ来るためなら、生徒は一人暮らしなんて全然厭わない。だから一人暮らし人口がやたらと多いので、学食を利用する生徒も必然的に物凄く多い。 「だから混むって言ったんだ!」 オレが悪態をついた。 「まったく行動の遅さが亀以下だなキミは!」 まだまだ詰る。カレーの恨みは怖いですよ。 「うるせーな、わかったよ」ロイはうんざりした様子で、ふらふらと人混みの中へ入っていった。 で、数秒で戻ってきた。 両手にはカレーをしっかり持っている。 ど、どんな早業だ! 「ど、どうしたんだよそれ!いくらなんでも早すぎだろ!」 ロイは事も無げに、「女子から貰ってきた。金は払おうと思ったけど、固辞されたのでタダ」と、さらり。 唖然とするオレを流し目で見て、ふふん、と鼻をならした。 「利用価値のあるものは利用しないとな。食費削減」 「さ、サイテーよ!」 女という生き物の扱いに慣れすぎだ。この百戦錬磨の女垂らしめ・・・!誰かこの男に天罰を! 「エドも『ねえ、ちょうだい!』って可愛く言えば、熨斗をつけて献上されるだろうよ」 「なんでオレは可愛く言わなきゃいけないんだよ!」 ぷりぷり怒りながらもカレーを一つ奪って、食堂の席につく。 ロイが隣に座ったところで、オレは飲み物を買いに自販機へ立った。 お茶を買おうと思ったのだけど、財布を見たら、100円しかなかった。金を補充してくるのを忘れたのだ。学生さんはお金がない・・・。 ロイに借りようかな、と思ったのが第一の選択肢だったけれど、オレの後ろににっちもさっちもいかないどぎまぎした様子で並んでいる二人組みの女子を見て、考えが変わった。 え、エドワード様よ、間近で見るとほんと綺麗、睫毛ながあああい、などと色めき立っている二人組みに、勇を鼓して、話しかけた。 「あのさ」 目を見張ってカチーンと氷になった、どうやらオレ党らしい女の子に、 「・・・オレ、20円、お金足りないんだけど、さ・・・」 泡を食って差し出された五十円玉を、ありがとう、と言って受け取った。 ロイが遠くから、にやにや見ているのがいやと言うほどわかった。 おつりはちゃんと、返しました。 そしてまた、魂が抜けていってしまいそうなほど暇な授業が始まる。 7時間授業のあとに別個の講習も1時間出なきゃいけないことになっているのだけど、流石に今日はそれまで出席する気にならなかった。 だって、暇で暇で死にそうだ。 もう帰りたい。昼休みというオアシスを楽しみにして午前中は授業に忍耐強く耐えていたけれど、それも無くなってしまった。 はあ・・・と、今日は星の数ほどついた溜息を、また吐き出す。はあ。続けてもうひとつ。 一番前のロイは、また寝ている。教師ももう諦観し、注意もしない。 しかし一時間目以外一日中寝ているのだけど、あれほど寝る男だったかあいつは? きっとあいつも退屈なんだな。 しし、と心の中で笑ってやった。見ろ、エドワード様の有難さを! さて、じゃあオレも食後の午睡と行きますか。ただ眠るだけでも、後ろにロイがいるのといないのでは、大分違うのだけど。 椅子をギィギィしても、誰もおさえてくれない、し。 そういや、ネクタイもまだ、バッグの中だ。 過剰に与えられる睡眠に怖気づいて、なかなか睡魔もやってこない。 踏んだり蹴ったりだな、もう。 7時間目終了のチャイム。 オレに生命の息吹が戻ってきた。おかえり魂! ロクな話もないのに、毎日儀礼的に行われるHRも終え、また日直の、起立、今度は礼ではなくて、「さよーなら!」。 さよーなら! 「ロイー!帰ろうぜ!」 「お前講習は?」 「え、サボる」 「じゃあ俺も帰ろ、なんか疲れた、寝てしかいなかったのにな」 帰宅。 オレはすることもないので(宿題が山ほど溜まっているけれども、もはやそんなもの芥視している)ベッドに着替えもせず倒れこんだ。 視界の隅に入った水道を見て、ドキリとしながら、起き上がっておっかなびっくり捻ってみる。 出てきたのは、水。 当たり前だ。水道から牛乳が出るわけない。 「よ、良かった・・・!」 それでもオレは、本気で胸を撫で下ろした。 もう一度ベッドに沈んで、ふぅ、と吐息をついた。 暇だな。 家に帰っても暇な思いをしなくちゃならないなんて、まっぴらごめんだ。 通学用バッグから普段宝の持ち腐れになっている携帯をごそごそ取り出して、“メール新規作成”をひらく。 「あ」思わず声を上げてしまった。 今更気が付いたことがある。 オレはロイのアドレスを知らない。いつも宅電にモーニングコールがくるので、まったく不自由がなかったのだ。 他のクラスメートのアドレスはぼちぼち入っているのに、よりによってロイのは入れ忘れていた。 (アホくさ) 携帯をパチンと閉じてポケットに入れ、私服に着替えてパジャマを携え、外へ出た。 家はすぐ近く。話すことがあるなら、出向けばいいのだ。まったく、現代の若者はこのちっぽけな機械に依存しすぎですな。 まあそれでも、一応、アドレスを聞きに行くのもひとつの理由なんだけど。 ノックをすると、すぐに開いた。 「・・・いらっしゃい」 「いらっしゃいました」 オレはいつの間にか片付けられていたソファに腰を下ろし、ふんぞり返った。「客だ、麦茶のひとつでも出したまえよ」 「冷蔵庫の中」そう律儀に教えてくれるということは、汲む気がないということだ。 なんだよもう、とぶつぶつ言いながらオレが麦茶を汲み、青磁のガラスでできたオシャレなコップをふたつテーブルに並べた。 「ねえ夕飯食った?オレ食ってないんだけど」 「ん?食器棚の下の観音開きにカップラーメンが入っていますよ、ふたつよろしく」 ロイはソファで寛ぎながら言う、つまり、自分で作れと。 「自分の分は自分でやれよな!」 「それは俺のカップラーメンだ、文句あるなら歩いてローソンでも行ってこい」 くそう・・・。 言われるがまま、オレはふたつのカップラーメンにお湯を注いで蓋をし、時計を確かめてからDVDの吟味に入った。 「なー、DVD見ようぜ」 ロイは閉じていた瞼をちらりと開けて、暗いトーンで言った。「お前、また泊まってくのか?パジャマもちゃっかりあるし」 あっさりオレが首肯すると、やっぱり、と言わんばかりにはーっとロイが溜息をついた。 「な、なんだよ!」 「お前さ、自分の立場もう少しわきまえろ。色々苦い思い出があったんだろ、中学で」 オレは唇を尖らせた。確かに、そうだけど、 「・・・わかってるよ、ロイ以外にはこんなことしないもん、ね」 ぷい、とDVDの群の方に向き直った。 『Life is Beautiful』という表題に目を留めた辺りで、真後ろに迫った声を聞いた。 「俺だと思って油断してると、」 その声の至近さに驚いて、再度後ろを振り向くと、ソファから床に下りたロイの顔がすぐ、ものすごく近くに── オレは後ろに尻餅を付いて、後退した。 「返り討ちにされる──」 ひやりとした手が、オレのシャツの裾から、するりと滑り込んできたので、 「わっ・・・!」オレが危機を察して思わず声をあげると、 「かもよ」 と、ロイが言った。手はもちろん、あっさり抜かれた。 「きょ、きょ、協定ー!!忘れたのか貴様は!」オレが“友達協定”を主張しながら憤る。 「ハイハイ、男には興味ないから大丈夫ですよ」ロイがこれ見よがしに肩を竦めて両手を広げた。そして、「『Life is Beautiful』、それ面白い。見る?」 オレはまだ怒りながらも、 「・・・見る!」 しばらくロイの揶揄に対して怒っていたけれど、今日は何かと、退屈だったので、まあ、いっか。 *** オレがまた、7時間の授業に絶望を感じながら登校した翌日、朝のHRで担任のワイマールに(やっとこさっとこ、名前を覚えた)まず言い渡されたこと。 「キース、エルリックと席をかわってくれないか」 キースっていうのは、ロイの隣に座っていた同級生だ。 話によると、ロイエド党から、ものすごい批判がきていたんだそうだ。保護者(の中にも党員がいるらしい)からの電話も殺到。それらは皆一丸となって、『ロイ様とエド様の席を離すべからず!』と主張。 その上、オレたちがたったの一授業も起きていたりしないから、それも相俟って、 「まったく、お前たちは相方がいないと起きていることもできんのか!」と怒られた。 キースさんも「別にいいですけど」と唯々と快諾し、オレは彼と席を交換することになった。 今度は、奴の隣だ。 ガタガタと席を動かす。周りが道を譲ってくれるたびに、「失礼失礼!通りますよ!」 今日の7時間は、溜まった愚痴を吐き出せそうだ。そういえば、牛乳の悪夢の話もまだしていなかった。 まずはネクタイを結んでもらって、それから話そう。 なんて言われるだろうか? ロイの隣まで机を運ぶと、机に肘をついたロイが、言った。 「今度は隣かよ・・・」 「またうるさくなりそうだな」 互いに皮肉りあうけれども、オレたちの口元はにやりと緩んでいる。 「「最悪だぜ」」 それは、愛ある皮肉。 六便ですー! 『愛・あい・アイロニー』ってことでしたが、ダサいね!あのダサさを個性にしていきます笑 |