深海を漂泊している──息苦しくはない。ああ、これは夢か。
ダークブルー一色に包囲された中を、しゃぼん玉のような空気のボールが上へ上へ向かって泳いでいく。重力さえも無視して、何かを追い求めるかのように一心不乱に泳いでいく。
水中にいるはずのオレは、なんら身体に感じるものはない。それはもちろんこれが夢だからであって、呼吸もできるし殊更寒くもない。
そう、別に殊な異常はなかったのに、そう思って安心した矢先いきなり左耳の方が冷たくなってきた。水が入ってきているのだ。
ぎゃ!と慌てて手で耳を塞いでみるけれども益体なし、水は傍若無人に浸入してくる。
為す術もなく、ど、ど、どうしよう!と狼狽えた末、はっと卓見が導き出された。
目を覚ませばいいんだ!

自分でどうやったのかもわからないが、とりあえず、オレは現へ舞い戻ってきた。
生き返った現の視覚が感受したシアンのベッドシーツは、確かに海的なものを彷彿とさせる。だからこんな夢を見たのは、このシーツの色のせいかもしれない、っていうのはわかったんだけど。
左耳はまだ冷たい。
(水・・・!?)
「ぎぇあ!!」
飛び起きると、左耳はもちろんその付近一帯は水だらけで、髪まで水滴が滴っている。その上用意周到なことに、オレの頭の下にはしっかりバスタオルが敷いてあって、ベッドそのものは濡れないような工夫までされている。
右を見ると、ロイが水の入ったコップを片手に携えて立っている。その顔がにやっと笑った。「これぞ正に“寝耳に水”」
「馬鹿かお前は!全然おもしろくねえっつーの!あー耳に水入って嫌な感じすんじゃんか・・・!」
「だって奥さん全然起きないんですもの」
「だからってな!お前今日から国語の勉強禁止!」
「禁止されなくてもしてねえよ。早く用意しろ」ロイがオレに制服を投げた。
なんだかもう最近は、家に帰ってもすぐロイ宅に遊びに来てそのまま泊まっていくので、それなら面倒だしって感じで真っ直ぐ学校からロイの家へ二人で帰宅してしまう。自分の生活必需品もいくばくか持ち込んだけれど、一方的に迷惑を被っているのは勿論ロイだ。いや、まあ、その辺は確かに申し訳ないと多少なりとも思っているさ。思っているけど、この起こし方はあんまりだろ!
「もっと労わるような起こし方ができねーのか!」
文句を垂れながら制服へ腕を通す。おや?なんだか洗濯されている・・・ロイがやったのか。うーん、几帳面なやつめ。男のくせに、珍しいよな(ブロッシュなんかは一週間ワイシャツ流用とか言っていた、中にTシャツを着ているとはいえなんともコメントし難い)。
「何、それならどう起こしてもらえれば満足なのかね。王子のキスでも欲しいですか、男同士で、聖学の姫君さんよ」
「・・・それぐらいなら永遠に眠ったほうがましだ」
「だろ、“寝耳に水”方法に万歳三唱したのち土下座しろ」
「オレ学校休みたくなってきた」
ロイに急かされ背中を押されながら、いやに冴えた目で外へ出る。学校に間に合う最後の、8時12分発の電車に乗ることはオレが起床した時点で大決定しているので、とにかくそれに間に合うべく懸命に自転車のペダルを漕ぐのは、ロイ。こいつはかなりの苦労性だな──って苦労させてんのは九割方オレなんだけどさ。
「あ、見て、スズメ!」オレが悠々と自転車の荷台に立ちながら、民家の塀にとまっていた雀を指差した。
「スズメぐらいいんだろ戦時中じゃあるまいし!」立ち漕ぎで駅へのラストスパートをかけるロイには、雀観賞の余裕など微塵もない。
「戦時中ってスズメいないの?」
「知るか!」
後から聞いたら、『なんとなく、そういう和むような、微笑ましい風景はなさそうだろ』っていうことらしい。そうなの?
しかしながら、最近専ら雀を見なくなったので(これは何?環境問題云々かしら?)、なんだかオレはその朝の一ページに感動してしまった。幸せですな!
こういう小さな幸せをひとつ見つけて、それを共有する人がいれば、その日はきっと良い日になるのよ、って、昔誰かに教えられたような気がする。
今のおざなりなロイの反応も、『共有』と言えるのなら、今日は幸せな日になるでしょうか!
黒よりの灰色に染まった硬質のコンクリートには、容赦なく照りつける太陽によって、熱が漲っていく。
「いい天気ですねえ!」
今日も暑くなりそうだ。


★三毛猫ヤマト★
--第七便--



殺伐たる通勤ラッシュの時間帯を通り過ぎた電車内は、ひっそり閑としている。
有給休暇を終えたらしい日光の猛攻の上に、二人が乗っかったチャリを全速力で漕いできたロイはワイシャツの前をパタパタしながら冷房の気流に涼んでいる。長いバケイションを終えた太陽は、突然に元気になるから、これ本当に参りますな。その有り余った気力を冬に少し回してくれれば良いと思う。
目的の駅まで揺られる20分思う存分身体を休めたら、今度は学校までの猛ダッシュが持ち構えている。

改札を抜けて、再び突き刺さる日の光とこんにちは。
靴をしっかり履きなおして、「いくぜ相棒!」
学校までのレースが始まる。
荒い息をしながら走り続け校門が視界に入ると、すでに教員二人が門を閉じようとしていた。間に合いそうもない。
オレたちは無言で目配せをして、頷きあう。相棒の意思を確認するなり、二人でカバンを高い塀の向こうへ投げ捨て、ロイがオレを抱えあげひとまず先にオレが塀によじ登る。校内に進入したオレは校舎の裏の方にある、金網に作られた扉のカギを開けてロイがそこから入れば大成功。
あとは教室へラストスパート。

オレたちの登校劇はいつも慌しい。
教室のドアを汗だくで倒れるように開けると、朝の「おはよーございまーす」の挨拶の為にみんなが起立したところだった。当然ながら教卓の前に立っていた担任のワイマールに、「セーフ?」と請う。
「・・・お前らの努力に免じてな」嵐の呼吸をしているオレたちを見て、担任が小粋に言った。



「おっはー!今日こそエドちゃんのハートをゲッツ!」
ブロッシュは、このクラスにいるぐらいだから勉強はできるんだろうけど、馬鹿だ。『エドちゃんのハートをゲッツ!』なんて苦戯れているけど、曰くオレ党ではないらしい。
「・・・何これ」登校時の疲弊にまだ苛まれているロイが、渋い顔をして面倒くさそうに漏らした、「この生き物すごくうるさい」。
それに対してオレは「ブロッシュん家のテレビは三年くらい前にトリップしてるらしいね」と、ロイと同じく机に伏しながら答えた。
なんだよ、俺は超ナウい人間だよ、と、ブロッシュが墓穴を掘るような単語を使って抗議する。
「あ、ごめん、やっぱ十年くらいトリップしてるわ」
「してないっつーの!」
「三年でも十年でも百年でもいいから黙ってくれ、頭痛い」というロイの言葉に、オレとブロッシュが珍しく声を揃えて、「いやいや、百年前はテレビなんてないでしょう〜」とふざけて言うと、こめかみに青筋を立てたロイは黙ってしまった。
ひとしきりオレたちがカカカと笑うと、
「あ、そうだ。期末の結果出てたよ」ブロッシュが思い出したように呟いた。
ロイがぱっと顔をあげる。「どうだった」
にやりと笑って告げられた、「残念、マスタング君はまたもや二位」ブロッシュの辛辣な言葉に、ロイはまた机に頭を伏せた。
ひひひ、と下品に笑ったオレが、
「あちゃー残念でしたねマスタング君!」
と、慰み二割、揶揄八割の言葉をかけた。
「っつーかエドちゃんはまた490点台。むしろそこまで行くとどこを間違えてんのって話になるよな」
「数学の計算違いとかかな・・・オレ見直ししないのね、めんどいから。あとエドちゃんって言うな」
「エドちゃん、お前どんだけ天才なんだよ・・・いつ勉強してんの?いっつも寝てるのに」
「喧嘩売られてるなら買うけど、ブロッシュ」
「まあまあ」
ロイはまだ机にうなだれていたが、
「っていうかオレ8歳のときに一回大学受かってんだよね、さすがに超難関と言われるような大学ではないけど」
というオレの言葉にロイは反応してこちらを見て、ブロッシュは目を見張った。
「でもそれまでは、父親に毎日毎日超スパルタの教育受けてたよ。小学校も全然行かせてもらえなかったし部屋からさえも出してもらえねーの。一日中勉強勉強勉強・・・もう親父はとっくに死んだけどね」
オレがなんの感情も発露せずに淡々と言い切ると、ブロッシュの表情が驚愕から悲哀になった。「かわいそうに、エドちゃん・・・俺が慰めてあげ」「黙れ」
何度も言ってるけど、オレは覚える必要のないものは一切覚えられない人だ。けれどその逆に、『覚えろ』と指令を出したものはほぼ無限に覚えられるし決して忘れない。
「だからオレ聖書とかごっそりそのまま書き出せるよ。昔遊んで覚えたの、小学生のとき」
「聖書をまるごと覚えて遊ぶ小学生・・・おそるべし・・・」ブロッシュが感嘆した。
「そんな訳でキミタチが今必死に勉強している三角比も正弦定理も余弦定理も、オレは6歳ぐらいでマスターしていたのね。ほんとゴメン、天才で」
ロイとブロッシュが同時に、はあ、と溜息をついた。
ところでロイは不貞腐れているのか疲れているのか、違和感があるほどに口数が少ない。
なんかちょっと、変な感じ・・・?



パン、という威勢の良い音が空気に溶けると、息を殺して静止していた周りの景色が一気に躍動を始める。唐突に後ろへ進んでいく景観を横目で見ながら、50メートル先の白線へ疾駆する。
「エルリック6秒3!マスタング6秒4!」
骨も脳みそも筋肉でできていそうな体育の教師が、オレたちのタイムを読み上げた。
なんだか今日は始終走りっぱなしのような気がするが、それはさて置いて、タイムを聞いたオレはやったー!とこれ見よがしに万歳した。隣で呼吸を乱すロイは、またもやオレに敗北を喫したので悔しがるかなと思いきや、
「エドは身体が小さいから空気抵抗が軽いんだろ」オレの逆鱗を堂々と逆撫でした。
「なんだと貴様ぁああぁ!!」
“怒”のゲージが満タンになったオレは疲労も忘却の彼方へ追放し、飄々と逃げるロイの背中を全力で追った。負け惜しみほど醜い台詞はないわよ!

と、そんな訳で体育により限界まで疲れ果てた身体を(そのほとんどが追いかけっこという無駄な体力の消耗)数学の時間にゆっくり休める。サインコサインタンジェント・・・と念仏のように教師の口から発される言葉は、どうしてここまで催眠術をかける力があるのだろうか。きっと考え出した奴も、わざと眠くなるような響きにしたに違いない。
なんて支離滅裂なことをぼやぼや考えながら、眠りの国へ繋がる通路を駆けていった。
むろんロイも眠っているのかと思ったけれど、ロイの後ろの席に座る奴と談笑しているのでなんとなく複雑な心境で眠りに落ちた。
(変な感じ・・・)


その『変な感じ』が、如実にあらわれたのは下校時。
講習を終えて、教室とは違う席順のためオレとは少し離れたところに座っていたロイのところへ向かった。
「ロイー、帰ろー」
するとロイが、「こいつも一緒にいい?」と、脇に立っていたクラスメートを指した。ロイの席の後ろの奴だ。
オレはちょっと驚いたけれど、断る理由がある筈もなく快諾した。
よろしくー、と笑った感じの良いそのクラスメートの名前が出てこなかったので、ロイにひそひそ声で聞いた。
(こいつの、名前、なんだっけ!)
(セラヤだろ、いい加減覚えろっつーの、もう七月だぞ)
(せ、セラ・・・?初めて聞いた)
(アホ)

そうして三人で歩き始めて、しばらく歩いて、気付いたこと。
ロイとセラヤさんは大分と意気投合しておられるらしい。
なんでも、二人とも『映画鑑賞』という共通の趣味があるらしく、オレが耳にしたこともないような映画の名前が軽快なキャッチボールのように飛び交う。
「メトロって映画があるんだけど」「知ってる知ってる」「あ、まじ!うわー、知ってる人初めて見た!あれは不朽の名作だよなー!」「うん、あのラストシーンのさ・・・」「鍵を川に投げ捨てるとこだろー!あそこ泣きまくっちゃったよ俺なんか」「はは、確かにぐっとくるな」「あとさー、かなり昔のなんだけど・・・」云々と延々映画の話が続く。
オレも別に見ないわけじゃないんだけど、とにかくマニアックな話ばかりが飛び出すので全くもって付いていける自信がない。
(なんだよメトロって・・・聞いたこともないっつーの)
こん、と石ころを蹴飛ばしたら、自分が俯いていることに気が付いた。
(ちぇっ)つまんねーの。
そのままの勢いで電車の中でも、『ビューティフルマインド』やら『レッドメノウ』やら『アンダーザライト』やら、メジャーなものから超マイナーな映画までを網羅した会話が飛び交う。なかにはオレの知っている映画もあったけれど、話に入る気力はない。
オレはただだんまり押し黙ったまま、窓外の目まぐるしく変わる景色をぼうっと眺めていた。

三人とも同じ駅で下車し、改札を出たところでセラヤさんと別れた。
「セラヤもここで降りるんだな」
逆方向に向かって歩いていく彼の背中を見ながら、どうやらオレに話しかけたらしいロイを無視して、すごすご無愛想に歩を進めた。
「あれ?エドー、荷台乗んないの?」
ロイは自転車に跨ってオレの顔を覗き込んだ。「おや、怒ってらっしゃる」
「怒ってねーよ!」
「ほら、怒ってるじゃん」
「馬鹿言え、なんでオレが」
「退屈させちゃった?ごめーんね」
腑に落ちない気持ちであってもとりあえず荷台に立って、ロイのアパートまで帰った。


「だから、あんまり依存すんなって言いたいの、俺は」
帰宅するやいなや、ロイはそんな言葉を吐いた。まだむすっと膨れているオレが疑念に満ちた顔でロイを見遣ると、ロイは言葉を継いだ。
「俺が学校休んだとしたら、エドは誰と喋って誰と帰るんだ?昼飯は誰と食べる? そうやって、あんまり俺に依存してると困ることがあるだろ、だからそういう奴をもう少し持てって俺は言いたい訳」
その言葉を聞いて、オレは身体の芯がカッと熱くなった。
ロイの自意識過剰め、とか、そんな奴いくらでもいるよ、とか、色々言いたいこととか抗議したいことはあったけれど、それとは違うもっと論旨と離れた部分でオレはガツンと衝撃をくらったような気がした。
「な、なんだよ、それ・・・!」
今日、ブロッシュと話しているときに口数が少なくなったのも、そんな配慮があったってことかよ?
なんだよ、なんだよそれ!
ロイは全然わかってない。ロイ自身の存在の異質さとか、中学の苦い思い出に苛まれるオレにとってどんなに珍しくて嬉しい存在かとか、耳に心地良いアイロニーとかネクタイを器用に結ぶことの凄さとか有難さとか、くだらなくて安泰な“友達協定”だとかお揃いのピアスだとかそういう、ロイにとっては塵みたいにどうでもいいことでオレにとっては命ほど大切な事実を、無下にされたような気持ちだった。何かを明らかに否定されて、何かから明らかに突き放された。そんなかんじ。
悲しいとか怒りとかそういった低俗な感情を超越した悔しさみたいなものが押し寄せて、頭がワンワン言った。
「・・・ロイは、」
少しクラクラした。地面が不安定に揺れて、足元がおぼつかない感じだ。
「ロイは全然わかってないっ!」
オレは勢いに任せて外へ出て、ドアをバシンと乱暴に閉めた。



暫くの間夜風に当たって、高揚した感情を落ち着かせた。
そしたらなんだか、一方的に自分がアホだったような気が沸々と湧いてきた。
映画に詳しくないからって一人でふくれて、ロイの言葉に一人で怒って、何やってんの、オレ。
(ただの馬鹿じゃん・・・)
でも、
「でも、」
呟いてみたけれど、次の言葉は見当たらなかった。
風が妙に冷たい。今朝はあそこの塀に雀がいた。
『幸せな日』?そんなジンクスはもう信じない。
(最悪だよ)

三日ぶりぐらいに自宅に帰って、風呂に入った。
濡れた髪を乾かそうと、ドライヤーを探したけれど、そういやうちにそんなものは無かった。初歩的なことに気付いて自分にせせら笑って、どうやらオレは、ロイの家でついた習慣に捕らわれているようだった。
なんとなく髪が濡れたまま眠るのが嫌になったので、枕にタオルを敷いた。そうして横になってはみたものの、なんだか駄目だ。
人肌が側にないとなんだか寂しい。心もとない。
幼稚園児みたいな不安と物足りなさに襲われて、やっぱり起きた。入学当初、しっかり一人暮らししていた自分が不思議だ。
あ、そうか、これは“さみしい”だ。
オレは目ウロコにはっとした。
席替えのときに感じた退屈も、今日の心許なさも、同系統だ。“さみしい”という情だ。
あ、そっかー、なるほど、そうなのー。
「さみしい、さみしい」口に出していってみると、ようやくその言葉が自分のものとなったような感じがした。
(さみしい)
聞き慣れない言葉だ。奇妙な言葉だ。弱い言葉だ。
(ロイがいないとおれはさみしい)
そして切なる言葉だ。
多種多様な言葉を代行してくれる言葉。



髪が湿った状態でビデオ屋に行って、その後スーパーでカレーを作る一切の材料を買いこんだ。
夜の道を歩く。星が姿を見せ始めて、またたいている。
水気を纏う馬鹿な頭はなんだか冷えて、オレに氷の鉄槌を食らわせた。
今朝はここの塀に雀がいた。
『幸せな日』?そんなジンクスはもう信じないけど、その日を幸せにしたり不幸せにするのは、けっして雀でもジンクスとか運命とかいう曖昧なものではなくて、自分とか自分の大切な人だということはわかった。
この瞬間を、忘れないでいようと思った。この微妙な、かなしいとか怒りとか不安とか自嘲とか、そういうのを全部一緒くたにしてない交ぜにした“さみしい”っていう気持ちを覚えていようと思った。
覚えていようと思ったからには、オレは絶対忘れない、今を。だってオレは天才ですから!
脳みそに深く刻み込んで、ロイの家へ向かった。



鍵があいたままだった無用心な扉をおずおず押し開ける。
ソファで寛いでいたロイがこちらに気付いて、「やっぱり来ると思った」。
穏やかに笑んでいるその表情に甘んじたオレは、
「・・・ごめんね」と生半可に謝った。
「これ、おもしろいんでしょ」
言いながら、ビデオ屋の袋から『メトロ』を取り出す。ロイがゆっくり頷いた。
「・・・あと、カレーも、作るからさ、まだ夕飯食べてないでしょ」
はは、というロイの笑いが耳に触れた。
「エドのカレー、ちょっと辛いんだよな」
「・・・だから今日は甘口にしたよ」

映画を見ながらカレーを食べたら、きっと幸せな日だ。

*TO BE CONTINUED*